V 隙を見せる方が悪いだろうと言われたリアトリスは笑う。 「御尤もでーす。あぁ、でもいいと思いますよ」 「何がだ?」 「私は主のような戦闘狂ではありませんけれど、血肉が湧きあがるような楽しい戦いは――好きかもしれないね」 槍と斧が衝突しあう。一撃一撃が必殺と思しき、相手の攻撃。鍛え抜かれた身体から発せられる力は床を抉り、壁を破壊する。 しかしリアトリスは相手の攻撃に怯まない。積極的にぶつけ合う。斧がリアトリスの真上を通過する。 「えへっ」 ペロリ、とリアトリスは舌を出した。 アークのような戦闘狂ではない。それでも、しのぎを削るようなやり取りは嫌いではない。 リテイブのようにアークを殺したいと殺意を滾らせ、虎視眈眈と機会を狙っていたわけではない。それでも、アークを殺せるなら殺してみたいと思っていた。 ――アークもヒースも元気ですかねぇ。まぁ戦闘狂と殺し屋の心配なんてするだけ無意味極まりないですけれど、私も殺してみたかったのを、譲ってあげたのですから。死んでいたら困りますよ。 風の衝撃がリアトリスを襲う。壁に激突する。迫りくる斧を交わし、背後に回り込む。 刹那の判断で死を招く。死を回避し続け、勝機を狙う。 額から血が流れた。右腕が痺れてはいるが、相手も無傷ではない。リアトリスが傷を負っただけ、相手も怪我をしている。 ならば状況は変わらない。 「――終わりは何れやってくるんです。永遠はないのですから」 終わらないさといった最高責任者の声が脳内に木霊した気がして、咄嗟にそう呟いた。 男は不思議そうな顔を見せる。リアトリスは笑った。 「なんでもないですよ。ただの独り言です」 繰り出される連撃に残像が無数に走る。残像が消える前に新たな残像が生まれ、いくつもの刃が存在しているような錯覚をその場にもたらす。 やがて、斧が弾き飛ばされる。真っ赤な鮮血が上がる。男は驚愕する。 「なっ!? 女ごときに……!?」 「終わりよ。私はリアトリス・リニ。ただのメイド」 リアトリスの槍が男の身体を袈裟切りする。そのまま十字傷を作るように槍で切り裂いた。 [*前] | [次#] TOP |