零の旋律 | ナノ

螺旋の果て


 ホクシアとリアトリスは統制の街にある中央の塔の螺旋階段をひたすらに昇る。雲を突き抜けているのではないかと思えるほど高い。

「大丈夫ですか―?」

 ホクシアの歩みが僅かに遅くなっている。リアトリスが後ろを走るホクシアのペースに合わせて速度を落とした。

「だいっじょうぶよ。私の心配なんてしなくていいわ」
「そうですかー?」
「それに速度を落とす必要はないわ。私はまだ走れるのだから……早く決着をつけなければいけないのよ」
「でも本当にボスを倒したらエリティスの民は引き下がってくれるんですかねー? 司令官がいなくなっても無作為につっこんでくる諦めの悪い馬鹿が大勢いるかもですよ」

 リアトリスは興味なさげに疑問を口にした。

「さぁ……その辺はわからないけれども……」
「カサネ・アザレアを信用すれば大丈夫って思っているのですか?」
「違うわ……人族は信用するつもりはない。ただ」
「ただ?」
「魔族だけじゃどうにもならなかったのは事実よ。だから、大丈夫って信じたいだけ」

 ホクシアの凛とした声に、リアトリスは気の抜けるようね返答をした。

「まぁミルラが五人いてくれれば、私たちだけでもどうにかなったでしょうけど」
「残念でしたね―」
「そうね」

 答えた後でミルラが五人いれば魔族だけでエリティスの侵略を解決出来たとホクシアは信じてはいるが、万が一不可能だった場合――それとも人族と手を組まなければいけない事態に発展した時、ミルラは是非とは言わないだろう。五人もいればなおさらだ。
 もろ刃の剣なのかもしれない――ホクシアはそう思った。
 連戦で怪我を負っている。万全の状態とはほど遠いいが、それでも体力が尽きるわけにはいかない。
 最上階へ到達すれば――終わるのだ。目的はエリティスの住民を皆殺しにすることではない。全滅するのであれば途中から異世界へ渡ってきたミルラを数に含めも不可能だ。
 ミルラとて人族を全滅することは未だ叶っていないのだから。
 ついに最上階へ到達する。ホクシアは荒れた呼吸を整えるよりも早くリアトリスが最上階にある唯一の扉を蹴飛ばして開けた。
 威風堂々たる面持ちで待っていたのは異世界エリティスの最高責任者だった。

「あららー私たちがくるのはお見通しでしたかー?」

 リアトリスが首を傾げる。最高責任者である男は豪華絢爛が似合うような服装に、短く切りそろえた黒髪は清潔な雰囲気が現れている。権力者としての実力を肌で実感するような雰囲気を漂わせていた。歳の頃合いは五十中ごろだろう。真っ赤な玉座に君臨した姿には驚きの表情はなかった。

「当たり前だ」

 男が指を差したのでリアトリスはそちらの方へ視線を移した。ホクシアは相手を見据えたまま微動だにしない。
 リアトリスの瞳が一瞬見開かれたあと面白そうに口元が歪んだ。

「なるほど。そういうことでしたか」

 統制の街――その意味をリアトリスは理解した。
 ユリファスとは違う独自の文明を築いたエリティス文明における監視映像が魔術によって無数に映し出されていたのだ。人々の空間を色濃く監視している。
 街の外までは監視されていないようで、リアトリスの瞳にアークたちは映らなかったが、ホクシアと自分の姿は鮮明に映し出されていたことだろう。
 だからこそ驚いていないのだ。現状をしった上で淡々と監視を続けていた。
 映像の先にヴァイオレットとヴィオラが倒れている姿が映り、リアトリスは目を細めた。
 ホクシアがこの映像を見てなくて幸いだと思った。
 為すべきことをなした後に伝えようと決めて、視線を男へ戻す。



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