零の旋律 | ナノ

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 ヴィオラはエリティスを許せないし、何よりレスを滅ぼした人族のことが嫌いだ。
 ヴァイオレットたちもそれがわかっている。
 わかっているからこそ無駄な手段だと思った対話をせず武力で押し切ろうとしてきた。その為に数百年以上の歳月をかけてきた。
 武力と武力が衝突しあい、勝者と敗者が決まるだけ。悲しいほどに血を流す道を双方が選んだ。
 和睦の道はユリファスに移住せずエリティスに残った時点でついえた。
 ヴィオラの魔術とヴァイオレットの魔術が衝突しあう。
 眩しい光は、赤い空と合わさってまるで終末が訪れたようだ。
 薔薇の花弁が無数に舞う。血飛沫があがる。
 シャーロアの笑顔が浮かぶ。同胞を殺された。人族に。その中で生き残った大切な妹。
 何よりも大切な存在。

 ――待っていろ。全てを終わらせたら俺はお前の元に返る。

 世界ユリファスの光景が広がる。妹と共に自然の中を駆け巡った。過去の記憶も知らず受け継がず、無知で幸せだった時代。

「しぶといなぁ……本当に」

 ヴァイオレットは銃の引き金を引く。無数の光線が乱舞する。

 ――俺達の世界(エリティス)と違って終わっていない世界(ユリファス)を渇望した。
 ――そのためならば、その過程で失われる犠牲など必然。
 ――望みは、望んだだけでは手になど入らない。

「しぶといに決まっているだろ。俺はお前らが大嫌いなんだから二度も負けるわけにはいかない」
「此方とて一度も負けるわけにはいかなさい」

 魔術と魔術が競り合う。無数の魔術陣が具現する。青と緑の陣が衝突する。光と光がせめぎ合う。光が光を飲み込もうとする。青の剣が無数に投擲される。世界を凍らせようとするそれらは、地面へ突き刺さると氷の柱を生み出していく。光の光線が無数に放たれ、空間を破壊しよとする。赤が彩る、残酷な景色が視界に入りながらも攻撃の手段を止めない。
 次から次へと魔術を詠唱し続ける。
 痛みで言葉が途切れればそれは敗北を意味している。
 ヴァイオレットもヴィオラも負けるわけにはいかないからこそ魔術を駆使する。
 互いに異なる目的を達成するために諦めない。
 血飛沫があがり痛みで苦悶しながらも言葉だけは絶やさない。
 掌から無数の陣を出現させてヴァイオレットは魔術を発動させたまま、跳躍する。ヴィオラとの距離を詰める。掌から魔術を放つ。
 ヴィオラは回避が遅れ直撃する。口から血が吐き出される。意識が朦朧とするが二度も負けてたまるかと意識を懸命に持つ。
 諦めなければ勝てるとは思わない。けれど諦めたら勝つことすら叶わない。
 ヴァイオレットが接近してくる。ヴィオラは拳を振り上げた。ヴァイオレットの頬を殴る。ヴァイオレットは唾を地面にはきすてる。銃の引き金を引く。ヴィオラの腹部を貫通する。
 ヴィオラはトランプを投げる。狙いを済ませたと言うよりもただ武器があるから投げただけ。
 的を絞らない攻撃は当たらず、爆発だけがヴァイオレットの背後で風の衝撃となり襲う。

「はぁはぁ。流石に、魔力がもう尽きかけているわ」

 ヴィオラは笑いながら、トランプのジョーカーとクイーンを指に挟む。

「そりゃ……こっちだって似たようなもんだけどな」

 ヴィオラが最後の攻撃を放とうとしているのを察知してヴァイオレットも応じる。
 魔力の余裕がないのだ。あればヴィオラの魔力が尽きるのを待つのも一つの手だ。
 けれど、大技を回避するのに魔力を使えば、ヴィオラを殺すための魔力が足りなくなる。
 応じるしかヴァイオレットにはなかった。
 ヴィオラが指で六芒性をなぞっていく。ヴァイオレットが銃に威力を込める。

「我の敵を淘汰せよ」
「終焉へ導け」

 二人の詠唱がハーモニーする。奏でた術が始まりから終わりへ引導を渡す。
 眩い光が、統制の街を支配する。けれどそれも刹那。
 転瞬、世界は元に戻る。

「ははっ……しぶとかったよ、お前」

 横たわるヴィオラを前にして、肩膝をつきながらヴァイオレットが息も絶え絶えに言い放つ。ヴィオラは動かない。ヴァイオレットは立ちあがる。

「残った奴らを、倒さないとな」

 けれど、歩もうとした身体が動かず、地面へ倒れる。

「くそっ。動け――俺は、まだ死ぬわけには」

 懸命に身体を動かそうと地面を這いずるがやがて――力尽きた。



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