U 「それはこっちの台詞だ。魔術師。俺たちは世界ユリファスで暮らしていたんだ。それを今さら侵略されるのを大人しくどうぞご自由に蹂躙してくださいなんていうわけないだろ」 ヴィオラが答える。レスの魔術師として記憶を見てきた。様々な歴史が脳内に焼き付いている。忘れることなど出来るはずがなかった。 「そりゃそうだ。わかっている。レスの魔術師や魔族は、俺たちが殊勝な手段に出ようとも断ることは知っている。だから俺たちは最初から対話なんてするつもりはない。武力で排除するだけだ」 「もしもなんてことは聞かないんだな」 「必要ない」 「そうか、それもそうだ」 選んだ道は既に決まっている。ならば過去のことを振り返ってもしもを言うことに意味はない。ただ、前に進むだけ。背後を振り返ることは出来ない。後悔することも必要ない。 ただ己がなすべきことをなすだけ。 レスは世界ユリファスを守るために。魔術師は世界ユリファスを侵略するために、己が持てる技術を総動員してぶつけあう。 「ホクシア。リアトリス先に進め」 「いーんですか? ヴァイオレットに一度負けたんですよね?」 リアトリスの無遠慮な物言いが逆にヴィオラにはすがすがしかった。 「いーんだよ。シェーリオル立ちがあけてくれた道を立ち止まる必要はない」 「…………わかったわ」 本当は一緒に戦いたい、この場に一人残しておきたくない。それでもホクシアはヴィオラの言葉に従った。 ヴィオラが赤ん坊のころからホクシアは彼を見てきた。 「別に俺はヴァイオレットだから、相手にしたいわけじゃない。ただ、やるべきことをやるだけだ」 「えぇ」 ヴィオラは確かにヴァイオレットに対して他の魔術師より強い憎しみを抱いている。しかし、その憎悪だけで動く人物でないことはよく知っている。 ヴィオラは是が一番効率的であると判断したから、ホクシアとリアトリスを先に行かせるのだ。 ならば、心配だからといってその行為を無碍にすることは出来ない。それがホクシアの決断だ。 「じゃあ先に行くわ」 「じゃあ、御先にしつれいするでーす」 「リアトリス!」 「なんですー?」 「ホクシアを頼んだ」 「頼まれましたです―」 「ヴィオラ。酷いわね。私は貴方達より年上なのに」 「大切なお姉さんだからだよ」 「なら仕方ないわね」 ヴィオラにとって魔族は家族だ。だからリアトリスに託した。 ホクシアとリアトリスが先行しようとするのをヴァイオレットが良しとするわけもなく妨害しようとしたが、ヴィオラはトランプを無数に投げて六芒性を描き次から次へと爆発させていく。 爆風で薔薇の花弁が舞う。ヴィオラはそれに魔術を付加して氷の刃とし、空へ浮き上がらせて上空より地上へ無数の氷柱を振らせる。 ヴァイオレットは結界を展開するが、すぐに罅が入り破壊される。降り注ぐ氷柱に対して炎の膜を生み出し氷柱を焼き尽くす。氷が解け花弁に戻った薔薇はたちまち灼熱の業火に焼かれて散る。 真っ赤な世界はまるで終焉を現しているようだ。 リアトリスとホクシアは既に姿がない。逃がしたとヴァイオレットは舌打ちする。 「くそっ。……まぁいい。お前を殺せばいい」 ヴァイオレットが両手に己が改造した銃を構える。独特な形状をしたそれから放たれる光線。ヴィオラは地面を転がるようにして回避する。土埃が舞う。 「冗談。お前を殺すのは俺だ、お前に俺は殺されないよ」 ヴィオラは宣告する。 [*前] | [次#] TOP |