零の旋律 | ナノ

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 シェーリオルは魔導を詠唱する。ミルラから譲られた髪留めが瞬く。白銀の光が光線を生み出す。
 世界ユリファスが――リヴェルア王国が――この世界に侵略されない為に必要な手段を、ヴィオラとリアトリス、ホクシアの道を開けるために力を振るう。
 詠唱を必要としないシェーリオルが、それをするだけで強力な魔導を発動しようとするのが彼らの瞳に映る。騎士団の面々もシェーリオルが並外れた腕前の魔導師であることはこの戦いで実感している。故に、術を完成させない為にと攻撃を繰り出してくる。それをシェーリオルは視界に入れながらも無視する。
 銃弾が肩を貫く。痛みで一瞬魔導が不安定な形に揺れ動いたがすぐに形を取り戻す。
 二撃目が放たれる。直線状にいれば致命傷になる。
 仕方なく詠唱を重ねる形で結界を展開しようとしたが、シェーリオルの視線にホクシアが見えた。彼女が魔法を詠唱している。そして敵意のない結界がシェーリオルから、命を奪おうとする銃弾を弾き飛ばす。
 お礼の言葉は言わない。今は魔導を放つことに集中する。
 完成した魔導が直線に放たれる。白銀の光があらゆるものを分解する。直線状にいた騎士は悲鳴を上げる暇もなく身体が分解して光に包まれながら消滅する。
 一直線の道が開けた。

「いけ!」

 シェーリオルの言葉にリアトリスとホクシア、ヴィオラが頷く。すぐに進ませまいと生き残った騎士が迫ってくるがリアトリスの花弁の鞭が可憐に舞う。
 さらにジギタリスが援護射撃を行う。無音の銃弾は相手に痛みで打たれたことを気付かせる。
 血に飢えた獣の戦闘狂が、騎士を一人、一人と葬り去る。
 最初たった六人の侵入者に対しては多すぎると思われていた騎士団の戦力も最早残り僅かとなっていた。けれど、ユリファスの侵入者とて無傷ではない。



 魔法と魔法が衝突しあう空間は、間違いなく最高峰の魔法合戦だ。
 眩い閃光が何度も連鎖反応的に繰り返される。
 人族と比べ長命な魔族の中でも際立って長命である二人の魔族が己の魔法を駆使しあう。
 気を抜けば相手の魔法に飲みこまれてしまう。
 ユエリがミルラの結界を破壊しようと、威力の高い魔法を仕掛ける。ミルラは細い水の糸を無数に生み出して蜘蛛の巣上に張り巡せる。金剛石すら切断出来る程の鋭利な刃物と化した水は振れれば一溜まりもない。しかし、翼が生えたかのように宙を闊歩するユエリは、糸の網を巧みにかいくぐる。

「――流石に、他の同胞より長命なだけあって、中々しぶといな」
「お褒めの言葉光栄だ。しかし嬉しくはないな――何故、お前は私と殺し合いを繰り広げながらそれでも『殺気』を放たない」

 ユエリには理解出来なかった。彼女はミルラを殺すつもりで攻撃を繰り広げている。
 連続して生み出した魔法の弾が、ミルラの結果を破ろうとし続けている。無敵のような錯覚を受ける程強固な結界だが、破れないわけではない。攻撃し続ければ何れ亀裂から結界が崩壊し、ミルラを外へ引きずり出すことが出来る。
 ミルラの生み出す結界は強力だが、結界さえ破壊出来ればミルラの佇まいを観察するに武術には弱い。接近戦に秀でているとも思えない身のこなしだ。
 結界がなくなればユエリに分がある。
 けれど、その状況化をミルラはわかっているのにも関わらず、彼の雰囲気には一切の殺気が含まれていなかった。


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