零の旋律 | ナノ

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 壮絶な戦いを繰り広げようとも、それが接戦だとしても決着は訪れる。
 鮮血の血飛沫が花を咲かすように胸に広がる。。深く突き刺さった刃が身体を抉る。驚愕と目を見開き、胸に手を当てるその顔は歪んでいた。

「ふざけ……」
「ははっ、俺の勝ちだ」

 常盤衆頭領スイレンの身体に突き刺したレイピアを始末屋アーク・レインドフは抜き取る。
 満開に咲いた花弁が枯れるように血が飛び散り、アークの掌を真っ赤に染める。
 スイレンは力なく倒れる。枯れた大地に赤の水が残酷な潤いをもたらす。

「アーク。大丈夫か!」

 アークは唇から血を流すのを袖で拭き取る。あちらこちらから出血が酷い。最後の方は打撃を喰らった。骨も数本折れているかもしれないが、痛みより強敵と戦えたことに対する喜びの方が勝っていた。
 だから勝利の余韻に浸ってシェーリオルの言葉が最初耳に入らなかった。

「アーク!」

 再びシェーリオルが叫んで今度こそ耳に入った。

「どうしたリーシェ? 俺は今凄く気分がいい。リーシェも俺と戦ってくれるのか」
「それは依頼を逸脱するだろ馬鹿。怪我は?」
「あんまり良くないけれど、でも大丈夫だ」
「それは大丈夫っていわねぇだろそれ。応急処置くらいなら」
「はっ必要ない。今は――そんな時間すら惜しいほど俺は戦いたい」

 掛け値なしの戦闘狂。正真正銘の戦闘狂いだ。溢れる殺気にシェーリオルは後ずさりする。この戦闘狂を止める手段は持ち合わせていない。ならば、戦闘狂が満足するまでの戦場を駆け巡ってもらうだけ、それが一番いいことだとシェーリオルは判断した。


 リアトリスは腹部に拳を喰らって後退する。胃液が口から吐き出しそうに成程に痛い。

「乙女の腹を殴るなんて酷いですー!」

 リアトリスは笑いながらも、その瞳は酷く冷めている。
 騎士団第一部隊隊長レオメルに対して無数の怪我は負わせたものの、まだ致命傷を与えるには至っていなかった。槍がレオメルの顔を傷つけ、左の額から口元にかけて鋭利な傷が出来ている。視界は半分になっても闘士を失うどころかその殺意を増幅させているのが空気を伝わってリアトリスは実感する。
 右手で槍を振りまわす。回転させると槍に付属している花弁の刃が鞭の如く頭上で円を描き回る。
 遠心力をつけた花弁が踊り、レオメルの身体にまとわりつく。

「殴った責任はとってくださいね」

 リアトリスが感情の色を見せない笑顔で告げると、花弁がレオメルの身体をきつく縛りつける。

「――!?」

 身体を刃に押し付けられる感覚にレオメルは最後まで悲鳴を上げなかった。声を上げることはだけはせめてしないという意志があるように。その表情に怒気を孕ませたまま絶命した。
 リアトリスは花弁の鞭を手元に引き寄せる。真っ赤に染まった花弁の刃には果たしてどれほどの血がしみ込んでいることか。

「全く、しぶとかったですね。しかも怪我をしてしまったじゃないですか――痛いじゃない」


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