零の旋律 | ナノ

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 アークの短刀が宙を舞う。果たして、いくつの武器を失わせたことかそれでもアークは無限のように武器を新しく取り出す。

「ちっ」

 最早スイレンにとって見なれた光景。無尽蔵のように武器が振舞われようとも驚きはしない。
 アークが短刀を投げる。真っ直ぐな軌道は迷いがないほど明確な殺気を感じさせる。
 スイレンが番傘を開く。身体を守る盾のように展開した番傘がナイフを弾き飛ばす。スイレンが傘を雨が降ったかのようにさすとスイレンの周りに空から血の雨のごとき花弁が降り注ぐ。アークは走る足を止め、後方へ回避する。雨が止むとアークはスイレンの懐へ潜り込み、ナイフで切り裂こうとするがスイレンは番傘を折り畳み突き刺すとアークの肩を抉るが、、アークは笑顔のまま突き進むのを止めない。

「ちっぃ」

 スイレンが仕方ないと後退しようとしたが、アークの手が番傘を握る。引こうとする力と引き留めようとする力が拮抗する。
 さらにアークが踏み込む。スイレンは咄嗟に武器を手放した。失策だと気付いたのはすぐだ。アークが番傘の先端を握ったままスイレンに突き出してきたのだ。胸に衝撃を感じる。地面へ逃げるようにして転がり起き上がる。土埃が服につく。
 アークが番傘を手慣れた自分の武器のようにくるくると回して構える。

「そういやお前は何でも武器に出来るんだったな」

 この乱戦中にも武器をとっかえひっかえしていた。武器を選ぶことに制限はない。
ならば番傘を手放せばどうなるか、想像に容易い。けれど、容易い想像が、均衡した戦闘の中では浮かばなず、アークに結果として己の武器を渡すことになってしった。
 スイレンは被っているお面に手を当てる。慣れ親しんだお面。

 ――このお面がなければ、俺は

 常盤衆頭領としての証のお面。
 常盤衆は誰もがお面を所持しているが、頭領は一目でそれとわかるようにデザインが他のと異なっている。それを常盤衆以外の三つの街に住むエリティスの民も既知のことだった。
 嘗ての出来ごとが脳内に過る。今まで使っていた愛用のお面がボロボロになったから、常盤衆のお面を担当している仲間に頼んでお面を作ってもらっていた。完成した報告を受けて、古びたお面は閉まって新しいお面を取りにスイレンが常盤衆を離れている時だ――騎士団の襲撃にあったのは。咄嗟に仲間が常盤衆の頭領もその場にいると勘違いさせるために古びたお面を使って戦った。スイレンが新しいお面を手に戻ってきた時、常盤衆の仲間は誰ひとりとして生きていなかった。
 過去から現実へ思考が戻る。アークが槍を扱うように番傘を突き出してくるが、何でも武器に出来るとは言え、長年それを相棒として使い続けてきたスイレンにその腕前は劣る。

「ははっ。お前こんな使いにくい武器どうやって今まで使っていたんだよ」

 アークは笑う。戦闘が楽しいとしか告げてこないアークの笑みを見ていると、スイレンも自然と笑みが浮かんだ。楽しいと言う感情はない。ただ見る者を不安にさせる邪悪な笑みを浮かべただけだ。
 番傘を突き出してくるアークに対してスイレンは流れる動作で、その力を受け流す。
 アークは数度攻撃をした後、未練がないかのように番傘を背後へ放り投げた。
 スイレンは番傘を一瞥する。武器を取りに戻るにはリスクが高い。ならば徒手空拳に切り替えた方がいいと冷静に判断をする。

「やっぱ、こっちの方が使いやすいや」

 短いレイピアを両手にアークは持つ。

「そりゃ、お前にとってはそうだろうな」
「あぁ」

 アークとスイレンが同時に地面をける。何度も繰り返された壮絶なる死闘。
 果たして――勝利を掴むのは。
 戦闘狂か常盤衆頭領か。


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