][ 「あら、予想外の来訪者ね……」 アークとカルミアはほぼ同時に来訪者の気配に気がつく。その後、扉が開き、鈴が鳴る。 ゆったりとした足取りで――怪我を庇うようにしながら、ローダンセは階段を降り、二人の前に姿を現した。 「いらっしゃい。何か注文の品は?」 いつも通りの笑顔で客をカルミアは迎える。例え――酒場に用があったわけじゃなかったとしても。酒場に用があるのなら、開店している時に足を運ぶだろうから。 「あの時、響いた声はカルミアお前だったんだな」 「なんのことかしら?」 「最初は、誰の声かわからなかった。凄く聞いた事のある声なのに誰の声だか思いだせなかった。でも……わかった。あの声はお前だったんだな口調が違うだけでこうも印象が違った」 貴族を殺した人物が誰なのか、ローダンセも検討がついた。だからこそ確認の為やってきた。 アーク・レインドフがこの場にいたのは想想定外だったが、アークに敵意も戦意もない。ならば構わないとアークの隣に腰を下ろす。 「……まぁね。でも良くわかったわね。多分アーク、とローダンセ貴方しかわからないわよ」 誤魔化しは不要と判断し、認める。 「何故お前程の力を持っている奴が現状を認める?」 ローダンセはカルミアの実力を知らなかった。姿を認識させず、相手を殺すとなれば相当のてだれでなければ不可能だ。アーク・レインドフと同等か、それ以上の実力者だとローダンセは判断していた。 「私は別に私が何かをして変えようとか傲慢な事は思っていないわ」 「力を隠し現状を打破しようとしない、それこそが傲慢だとは思わないのか?」 カルミアはローダンセに麦茶を出しながら苦笑する。 「私はね」 「……?」 「足掻いて、それでも力が及ばない人に対して手を貸して上げたいという気持ちはあっても、誰かに――ローダンセに縋っているだけの人々に手を貸して上げたいなんて思っていないのよ。是が私の心情」 あの時、例え、波紋が渦になり人々が立ちあがっただけだとしてもカルミアは手を貸した。しかし、一度手を貸したからといって、次、市民がローダンセのみに縋ればカルミアは手を貸さない。 カルミアはそういう男だ。アークはカルミアのことを風の噂程度しか知らなかったが、それでもそれが的を射た噂だと確信する。そして同時にこう思った――風変わりだと。 「お前風変わりだな」 気がついたら口に出していた。 「よく言われるわ」 「だろうな」 カルミアの所業を知れば、誰もが風変わりだと称しただろう。 ローダンセは脳内に疑問符を浮かべる。カルミアがただ者ではないことには気がついたが、何者かは知らない。 「力があるのなら……私に手を貸してはくれないのか? 「私はそう言った人じゃないわよ」 手を振り、拒否の意を示す。だがローダンセも簡単には食い下がらない。 「わた……俺はこの現状を変えたい。じゃないと近い将来滅ぶのは目に見えている」 「でしょうね。市民を蔑ろにして王政が続くのは一時の間。長い目で見れば、あっという間に王政は滅ぶわ」 「なら、何故」 「なら、私が手を貸して上げたいと思えるだけの行動を起こしなさい」 決して自ら進んで手を貸さない。 「そうすれば、私は自然と手を貸すわ」 「お前は全く持ってわからないな。何を頑なに自分が自ら進む事を拒否する」 「多分、貴方たちには理解出来ない感覚よ。複数形にしたけれど、そこの彼を含めているわけじゃないわ」 むしろその逆とカルミアはアークの方を向く。アークもその意味を理解してほくそ笑む。 その感覚は、アークにしろ、ヒースリアにしろ同じだとアークは思っている。ローダンセには一生理解出来ることのないだろう感覚。 表と裏の違い。光と影の違い。表裏一体であり、異なり、似て非なる存在。 [*前] | [次#] TOP |