零の旋律 | ナノ

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 ヒースリア・ルミナス。本名リテイブ・ロアハイトが殺し屋として最後に活動したのは約二年前――思い出すだけでも忌まわしい――始末屋に出会った日だ。
 その時、無音の殺し屋と呼ばれていた彼は怪我をしていた。殺害対象が同じ穴の狢だったため、依頼は達成したものの怪我をしたのだ。生死にかかわるものではないが、その場を立ち去るには少々疲れていた。休息をしてからこの場を去ろうと思って、壁を背もたれにして座っていた時、人の気配を感じ取った。気だるげに銃を構えると、出会ってしまった――始末屋アーク・レインドフに。始末屋と殺し屋の依頼が偶々重なっていたのだ。
 結果として始末屋と無音の殺し屋は戦い、殺し屋は執事になった。


 時は少しだけ遡り、無音の殺し屋が休息をしている時間、始末屋は依頼をこなそうと屋敷を訪れたら血臭が漂っていた。

「は? どういうことだよ」

 慌てて始末対象の元へ向かうと既に殺されていた。誰が殺したのだ、と思って屋敷を移動していると――殺し屋にあった。
 怪我をしていながらも俊敏に動く彼を執事にしたいと思った。斬撃を幾度繰り返そうとも、その音を全て消し去ってしまう無音の殺し屋。自分と対等に戦える相手。そう――うっかり殺してしまわない執事が欲しいと思った。
 だから、無音の殺し屋はその日執事になった。

 お互いがお互い――何時か殺したいという衝動を抱えたままに。




 番傘が地面を抉る。跳躍したアークが拳銃の引き金を引くと、番傘が開き銃弾を弾く。異世界の地ユリファスでアークは踊る。両手に武器を携えて。

「頑丈な傘だなぁ」

 開いた番傘が円を描くようにスイレンを中心軸として回転すると、血桜の花びらが周囲を舞う。
 花弁が無数の刃となり、アーク目指して飛来する。無数の刃が天より襲い掛かる様は、血の雨のようで、禍々しくもあり、それでいながら無数の花弁が空を乱舞しているようで美しい。
 アークは銃を地面へ投げ捨てて剣を握る。花弁が降り注ぐ小さな刃を剣で弾き飛ばす。けれど、アークが手を振るうよりも花弁の舞う数は圧倒的。致命傷には至らずとも無数の傷を負わせる。
 滴る血に、口元を歪める。

「はっ、本当に何処までも戦闘狂だな」

 スイレンは苛立つ。嘗て常盤衆の頭領として戦場に身を置いていた時ですら此処までしぶとい者はいなかった。傘を右手から左手へ滑らすように流す。回転する番傘が風を纏い、地面へ落下した花弁が再び宙を舞う。

「あぁ、だって――楽しいだろ。強者と戦えるのは、何時だって愉悦だ」

 スイレンの独り言に、アークは笑顔で反応した。


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