零の旋律 | ナノ

Said:交錯


 連撃の嵐が吹き荒れる。無数に弾き飛ぶ。番傘と剣が衝突する。火花を散らす。
赤い線が軌道を描く。

「本当に最高だな! たまらない!」
「うぜぇなこの戦闘狂がっ!」

 戦闘狂が歓喜する同時刻――世界ユリファスのイ・ラルト帝国では執事が血をついた口元を乱雑に拭う。白の服に赤がこすれる。幾度となく刃を交差させたか最早数えるのも愚問な程に、衝突させていた。

「しぶとい奴だ。さっさとくたばればいい物を」

 イ・ラルト帝国の王ルドベキアは苦痛に顔をゆがませることも無く堂々と立つ。その右腕は銃弾が貫き血を滴らせている。

「はっ。負けるわけにはいかねぇんだよ“約束”があるから」

 ルドベキアと激闘を繰り広げていたヒースリアは無数の傷を負っていた。無音の殺し屋である自分を傷つけられる王の腕前に内心舌打ちをすると同時に流石と舌を巻いていた。
端正な顔を汚す血が滴るが、戦意は失われていない。
 ヒースリアは白銀の銃を両手に構え放つ。無音の攻撃に対してルドベキアは軌道を見きり回避する。銃弾が金属に辺り兆弾する。ルドベキアの長剣が弾く。激しい攻防は続く。銃弾が肩を貫こうが猛攻は止まらない。剣が肉を抉ろうが、正確無比な銃弾は止まない。ヒースリアの攻撃は相手を殺すまで止めない。
 何故ならば、殺したいと願った相手との約束がある、ただ一つにして絶対の約束がある。ならばこそ此処で朽ち果てるわけにはいかない。相手が例え王様だろうとヒースリアの否、無音の殺し屋リテイヴ・ロアハイトのやることはひとつ。
 全てはこの先に待っている未来のために。殺し合うために、敗北するわけにはいかない。

「ふん、殺し屋がする約束なんてどうせ碌でもないものだろう」
「あぁ、ろくでもねぇよ。けれど、それは俺にとって唯一絶対の約束だ。その約束を終わらせる前にくたばるわけにはいかない」
「残念だがその約束が叶うことはない」
「いいや、叶うさ。その約束を果たすための土台として、俺はお前を殺す」

 殺し合うために、万全の状態で始末屋に勝つため、そのために死ぬわけにはいかない。
 そして、万全の状況で戦うためにはこの事態を収束させなければならない。

 ならば――策士の思惑通りに動くのが一番だ。


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