零の旋律 | ナノ

V


 そして――常盤衆の頭領だった男が動く。
 番傘を武器として剣のように振るうそれにアークはレイピアを両手に握り応じた。
 戦闘狂が笑う、戦闘狂が振るう猛攻を彼は番傘で受け流す。誰かを踏み入れさせない実力で破壊の嵐を生み出す。

「あはははははは! 最高だ!」

 賛美にして娯楽。狂気にして破壊。付加に耐え切れなくなった刃が飛び、戦闘狂の頬を傷つける。頬から流れる血を舌で救う。悪寒を与えるような不気味さを放ちながらも相手は怯まない。
 戦闘狂が新たに出した刃物を番傘で受け止める。幾重にも振るう番傘には傷一つない。強固な作りになっているそれ、そしてそれを操るものの腕前に戦闘狂は甘美する。
 強者との戦いを求めている彼にとって戦いとは愉悦。

「っとに!」

 番傘で押しのけると戦闘狂は後退する。彼は舌うちした。この戦闘狂を相手にするのは厄介だと。
 常盤衆の誇りと実力にかけて負けるわけにはいかないが、この戦闘狂とのはほぼ互角だろうと冷静に分析する。
 互角であれば勝敗はどちらに転ぶかわからない。いつも以上に神経を尖らせる。

 ――まだ、やることがある
 ――まだ、やることがある

 二人の思考が交差する。共にやると決めたことがあるから此処で果てるわけにはいかなかった。
 始末屋は無音の殺し屋との約束を、元常盤衆は騎士団隊長の死へ復讐するために。
 番傘が開き、彼は雨が降った時に傘をさすようにして頭上を覆う。途端、周囲に真っ赤な花弁が舞い鋭い血の刃となり大地に降り注ぐ。アークは剣で自分に向かってきたのだけを弾く。回避できそうにないのは致命傷でなければ傷つくことをよしとした。最低限のダメージで済むように戦闘狂の中での回答が既に導き出されている。
 足に突き刺さる怪我が、酷く心地よい。血肉わき上がる戦いにおいて、痛みとは実感だ。

「あはははははっ、此処までの奴とやり合うのは久しぶりだ!」

 何時も戦闘を求めては拒否され続けてきた相手たちは沢山いる。拒否だされ殺し合いが出来なかった。だから今とても楽しいと実感していた。戦闘狂の本領を発揮できる相手に、満たされないわけがない。

「俺は別に戦闘狂とやりたいなんて思ってねぇよ」
「俺は楽しくてたまらないさ」

 アークは器用に剣を上空へ投げと倍した滞空時間で銃を手に取り発砲する。スイレンは番傘を使い、それらを悉く弾く。弾いた弾丸が地面を抉る。僅かな静寂の後、すぐに戦闘は再開される。


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