U ジギタリスは痛みよりも思わずため息が零れた。 「本当に呆れるほど戦闘狂だな。お前は」 強い相手であれば誰とでも戦いたい、徹頭徹尾ぶれることのない戦闘狂それが始末屋アーク・レインドフだ。 「それよりジギタリス大丈夫か?」 「それより扱いか。始末屋に心配されるほどではない。大丈夫だ」 ジギタリスの姿は言葉で言うほど説得力はなかった。すぐにシェーリオルが駆け寄ってきて治癒術をかけ始める。 「……止血だけで構わない」 「はっ?」 「止血だけで構わない。出血死さえしなければ問題はない」 淡々とした声色はまるで苦痛を感じていないようで、思わず錯覚しそうになるが、痛覚がある以上痛みをただ我慢しているだけだ。強靭な精神力で、顔に出さないだけに過ぎない。 「んなこといったって、そんな要求飲めるわけないだろう」 「大丈夫だ。この程度の怪我で私は死ぬわけもないし、この程度の怪我で戦闘不能になる程でもない」 「この程度の怪我って! 普通なら動けないだろ」 「……リテイブとやり会った時はもっと重傷だったが動けたぞ? それに生きていた。ならば問題はないだろ」 「おい。そういう問題でもない、一度あったからって都合よく二度もあるわけじゃないんだぞ」 「大丈夫だ。心配するな。それにな、お前は治癒術師ではない。お前の魔導は戦力だ」 「……ジギタリスはその決断でいいのか?」 「問題ない。私の身体は私がわかっている。それにこの怪我は私の不注意が招いただけのことだ。シェーリオルが気にすることではない」 凛として答えられれば、シェーリオルはジギタリスの要望通りにするしかなかった。治癒術は扱えるが得意ではない。それこそ治癒術師ハイリ・ユートと比べればその腕前は天と地の差だろう。 故に、一定以上の治療をしようとすれば時間がかかる。乱戦にして混戦な現状でそれが得策ではないことはシェーリオルとて熟知している。 戦闘狂に邪魔をされたことにスイレンの眉間に筋が入る。ネメシアを殺害した女へ復讐をしたくても始末屋が邪魔をして辿りつけない。苛立ちの余り舌打ちをする。 普段の温厚な印象を与えるスイレンとは逆の姿。それが本性。 「はははっ! 楽しいな!」 戦闘狂は笑う。高らかに笑う。武器が乱舞する。番傘を手の流れで回転させながら弾き飛ばす。 スイレンの手慣れた動作は常盤衆そのもの。 ブローディアは愕然とする。戦闘に手慣れている動きは素人でもなく玄人にして達人だった。 「そっか……やっぱり」 けれど、ブローディアは何処か納得出来た。いくらネメシアに惚れたからといって戦うことが正真正銘出来ないのであれば、騎士団に所属などしないだろう。だから心のどこかでスイレンは戦えるのだ、と思っていた。 「スイレン、貴様常盤衆か!」 騎士団の誰かが叫ぶ。 「……常盤衆が頭領スイレン――参る」 そのの言葉には耳を傾けず、スイレンは名乗る。 [*前] | [次#] TOP |