暗殺者約束 カサネとエレテリカの治療を終えたハイネが一息つく暇もなく、彼らはその場から移動した。軍師を倒したからそれでこの争いが集結するわけではない。まだやることは山ほど残っている。 彼らがいなくなって数分後、策士が存在を知らないノハ・ティクスが現れた。 血を流して絶命しているアネモネに、ノハは数度瞬きをする。 「僕との約束は誰も守ってくれないんだね……」 ノハはやや目を伏せて寂しげに呟く。守ってもらいたいと思う『約束』は守られた試しがなかった。 何時も皆約束を反故にした。 『此処で待っていて。後で迎えに来るから』 『いい子で待っているんだぞ』 そう言って約束をした両親が迎えに来る日はついぞなかった。それが最初に破られた約束。 それ以降ノハは約束に拘るようになった。 けれど――リアトリスも、アネモネも、他の人も皆最後には約束を守ってくれなかった。 破られる約束。 アネモネが地に伏し生きていない姿を眺めながらノハは思う。 どうして約束は守られないのだろうか、と。 だからノハは決めた。 「約束がない以上、僕がなにをしようが、僕の勝手だ」 ノハはアネモネの死体を背に歩み出した。 +++ 彼は、襲ってくるイ・ラルト帝国の兵士を打ち殺しながら城内を進む。いくら、策士の作戦によって帝国の兵士が動かされていたとしても、城内の兵士全てが消えるわけではない。しかし、強者は彼が向かう先に一人しかいない。故に彼にとって、道中を襲ってくる兵士は有象無象に過ぎなかった。 そうして辿りついた先は玉座。玉座に威風堂々と座るのは王。 「イ・ラルト帝国が王ルドベキア。貴方は今日此処で死んで頂きます」 丁寧な口調だが慇懃無礼な態度で死刑宣告を告げたのは、光加減では金髪にも見えそうな銀髪持ち、ルビーを彷彿させる瞳の人物だ。白と赤の二色で彩られているが華美とは感じさせない服装からは高級感が漂う。端正な顔立ちを合わさることで高級な絵画が具現化したようだ。手にした白銀のマスケットに似た形状の銃は精密な作りは銃というより芸術品。 「はっ。高々リヴェルア王国の刺客が何をほざく。一国の主を殺そうなどとは不敬罪も甚だしいな」 高圧的な態度で王ルドベキアは返答する。一国の王とは思えないほどに逞しい鍛え抜かれた身体付きに、その精悍な容姿に見合うだけの武功をあげた王だ。玉座より立ち上がり、身の丈程の刀を抜く。銀が反射して、彼の顔を映し出す。 「不敬罪? そんなもの私には関係ありませんよ。どれだけ不躾を働こうと貴方は此処で死ぬのだから関係ない」 対する銀髪の彼――ヒースリアもまた不敵な笑みで断言する。 殺意と殺意が重なり合った瞬間、彼らは殺し合う。 [*前] | [次#] TOP |