]Z(依頼破棄の方法) 『レインドフ家に依頼を破棄される為には』 カツン――カツン。 靴音が響く。 『三つある』 聞き覚えのある声が響く。けれど――それが誰の声だか判断出来ない。 『そしてそのうちの一つが――依頼人が死ぬこと』 死ぬこと、と言い終わるといなや貴族の身体が血を噴き出して倒れる。一瞬にして高級な人車は真っ赤に染まる。嘲ている表情のまま、だらしなく口が開く。何が起きたかを認識することもなく殺された。 『依頼人が死ねば成功報酬を得られないレインドフ家はそれ以上動かない』 声は木霊するのに、その姿を捉えるられない。何が起きたのか軍人も市民もローダンセも理解出来ない。 唯、ローダンセに理解出来たのは、アークのやる気のない表情だけだった。銃をアークが手放すとその重みに今は耐えきれないローダンセが痛みで銃を地面に落す。 アークはそのまま、その場を離れた――。もう、ローダンセに興味がないと言わんばかりに。 ローダンセは一瞬呆けた表情になり、そして、すぐに命拾いしたことを実感する。 市民は慌てて傷だらけのローダンセに近づき優しく抱擁を交わす。 「良かった、ローダンセが無事で」 一人が涙を流して喜ぶ。 「今まで貴方に全てを背負わせて御免なさい」 一人が謝る。そうして連鎖は市民全体に広がり続いていく。 ローダンセは中心で、優しく笑った。嬉しそうに微笑んだ。悲しく泣いた。 突然、貴族の男を失い、軍人は何をすればいいか迷い、市民を殺そうと銃を構えるが、その瞬間殺害される。何者かによって。 最終的に生き残った軍人は此処にいては危険だと逃げ帰る。 +++ 準備中の看板を無視して、扉を開ける。来訪者を告げる鈴が鳴る。 カツン、カツンと足音を響かせなながら、階段を下りきったところで足音は止まる。 「いらっしゃい、何かしら?」 カルミアが準備中に入ってきたことを咎めることもせずに、何時もの笑顔で客――アークを迎える。 「よくも邪魔してくれたな」 アークの声が僅かに低い。 「何のことかしら」 恍け手を口元に当てて笑みを作るが、アークは顔を顰めるだけだ。 「お前だろ?」 何をとは問わない。問う必要性がない。 「お前が、あの場で俺の依頼主を殺したんだろ。あんな芸当はお前じゃなきゃ出来ないだろうが」 カウンター席に座る。食事を取りにきたわけではないため、何も注文もしない。 アークはただ、依頼主を殺し、強制的に依頼破棄に持ち込んだ男と話がしたかっただけだ。 「お蔭で俺の依頼料はどうなる? ただ働きじゃねぇか」 「一つ依頼破棄された程度で文句を言わないで。別に依頼破棄された程度では貴方の生活は変わらないでしょう?」 カルミアは否定しない。依頼破棄をさせた事に関して。 「何故お前が? 特に改革にも興味ないんだろ?」 「私は、自ら行動を起こすこともせず、誰かが手を差し伸べているのを待っているだけの人に、手を指し伸ばしてあげたいとは思わない。自ら行動して、必死になって――それでも叶わないのならば、手を貸して上げたいって思うのよ」 「成程、自らの危険を顧みずあの場で市民は動いた。ローダンセのために。ローダンセの為にということは国を変えたいという意思の表れか」 ローダンセを助けたいだけならば、アーク・レインドフと敵対すればいいだけの話。 最もそれが面倒だから依頼主を殺したという選択肢も残らないわけではない。 「そういうこと。ローダンセは市民にとって希望。ならば、その希望を守るために動いた人を渡しは無視するつもりはないのよ。だからこそ――依頼破棄して貰ったのよ」 「全く。依頼破棄の条件が何処から漏れたのか」 「そんなの、関わっていれば言わずと知れたことよ」 「まぁな。……酒奢れ」 「いいわよ」 カルミアは酒場にある中でも特に高級なのをグラスに入れてアークに差し出す。依頼破棄をした結果がその程度のものなら安いと。 [*前] | [次#] TOP |