零の旋律 | ナノ

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 シェーリオルは左手で傷口を抑えながら、相手いる右手で攻撃の手を休めないジギタリスの前にたち半ば無理やり押し倒す。

「何をする?」
「その怪我のまんま戦うとか馬鹿だろ」

 その隙をついて、カーライトが攻撃してきたがシェーリオルは結界を瞬時に展開して進入を拒む。

「結界か」

 だが、カーライトは結界を意図せず連続で攻撃を加える。結界が攻撃の強度に耐え切れなければ砕け散る。それを狙っての攻撃だ。
 刀が円の軌道を描く。具現した雷の魔法陣が、直線に迸る。不意を突いた攻撃だがカーライトは寸前の所で、結界の傍ギリギリを切断するように現れた雷を回避出来た。

「ホクシア!」
「人族を助けるなんて今回限りよ」

 結界の間にホクシアが立つ。刀を構える姿は凛々しい。

「――助かる」

 ホクシアがいれば、敵を気にする必要はないとシェーリオルはジギタリスの左手を顔から離させる。左側の顔はほぼ真っ赤に染まっていた。

「止血もしないで戦うなんて死ぬつもりか?」
「死ぬつもりはなかったさ」
「なら、なんでだ、せめて俺をすぐに呼べよ」
「――この状況化で呼ぶわけがないだろう、怪我など無視しろ」
「はっ理解できねぇな。戦闘狂といい、お前といい」
「理解しなくていい。王子様が私たちを理解する必要などないだろう」
「……怪我を治す」
「止血する程度でいい。どうせ左目はもう駄目だ。ならば、止血だけでいい」
「っ――いいのかよ」
「駄目だとわかっているものに、治癒術の時間を取らせるわけにはいかないだろう。駄目ならば切り捨てるだけだ」

 凛とした口調、一切のぶれがない――ショックを感じられないジギタリスの振舞いに、シェーリオルはそれ以上何も言えなかった。

「わかった。じゃあ止血だけする、けど無理をするなよ」
「問題ない、私は存外しぶといのだぞ? 弟と殺し合った時だって大怪我はしたが生き伸びたのだからな」
「そういう問題じゃないだろ」

 シェーリオルは治癒術に集中するためか、それ以降は淡々と――止血だけでも出来るだけ怪我のあとが残らないよう注意しながら治癒術をかけていった。

「怪我の跡が残らないように注意をさく必要はない」

 途中でシェーリオルの思惑はジギタリスに見抜かれたが、返答はしなかった。


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