零の旋律 | ナノ

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 カーライトが迫ってくる。ヴィオラは氷の魔術を放つが、悉く交わされる。振り下ろされる剣をヴィオラは強化したトランプで受け止める。力押しでは弾き返せないと判断し後退する。相手が踏み込んでくる。連撃をトランプで捌いていたが、指の間からトランプが抜け落ちたその隙を相手は見逃さない。
 ――しまった!
 ヴィオラはこのままだと切り殺される、と焦る瞬間、銀色の残像が視界に映った。

「ヴィオラ!」

 ジギタリスがヴィオラとカーライトの間に流れるように割り込む――ヴィオラを庇うようにして。間に押し入ったため、カーライトの攻撃を回避しきれず、ジギタリスの顔左側が切り裂かれる。

「つっあ」

 痛みから声が漏れるが、ジギタリスは視界が半分になった中で、銃を構え発砲する。カーライトは深いおいせずに距離を取った。距離を詰めてこないよう、ジギタリスは照準を合わせず引き金だけを数発引いた。

「ジギタリス!?」

 ヴィオラが背後から慌てて声をかける。自分の力不足が原因でジギタリスに怪我をさせてしまった事実に愕然とする。ジギタリスの両肩を掴んで、自分の方へ身体を向けさせる。ジギタリスは左手で、左側の顔を抑えていた。陶磁のような手は赤く染まっている。手だけでは出血を抑えきれず、銀髪や、白の服に血が染みていく。

「大丈夫だ、気にするな。敵から――目を逸らすな」

 ジギタリスはヴィオラから視線をすぐにずらし、身体を反回転させ敵と向き合う。

「気にするなって! 気にするに決まっているだろ!!」
「――私はお前を守ったわけではない。私の優先順位に従っただけだ。だから、お前が気にする必要性はない」
「優先順位に従っていようがそうじゃなかったとしても、俺を庇ってジギタリスが怪我をした事実には変わりないだろ!」

 ジギタリスは返事をせず、引き金を引く。無音の銃弾が、騎士の胸を貫く。

「(照準が数ミリずれた……やはり片目では正確な距離感を掴めないか……)」

 致命傷を外れた攻撃では止めを刺すには至らない、とジギタリスは位置が外れた分の距離を訂正し、照準を修正する。狙いを瞬時に定め引き金を引く。今度は狂いなく心臓を貫いた。
 仲間の騎士が殺されていく憤りをカーライトは感じながらも、ジギタリスの腕前に感嘆していた。怪我をして尚も戦意を喪失しないどころか攻撃を続けるその手腕は並大抵の技量ではない。深いおいしなかった自分の判断は正しかったと安堵する。

「――っ。リーシェ!」

 ヴィオラは唇を噛みしめてから現状に対する判断を下した。自分では治癒魔術を扱えない。この面子で唯一治癒を扱えるのはシェーリオルだけだ。
 名前を呼ばれたシェーリオルは、第一部隊副隊長アシリスとの戦闘から目を離す。チャンスとばかりに大蛇に渦巻いた炎がシェーリオルを飲み込もうとしたが、結界でそれを弾き飛ばす。
 呼ばれた視線の先には、顔から血を流すジギタリスの姿が目に入った。ヴィオラが呼んだ理由を理解したシェーリオルは駆けだす。

「戦闘中に敵に背を向けるんじゃありませんわ!」

 背を向けられたアシリスは憤りを魔術へ変換しシェーリオルへ襲いかかるが、シェーリオルは見向きもせず相殺するため相対する水属性の魔導で鎮火させる。
 術でシェーリオルに向かいあっていても殺せないと判断したアシリスは、悔しさに唇を噛みしめながらも冷静に状況を判断し、レイピアを抜き取る。距離を詰めようとしたが、魔力の蠢きを感じ直感的に後退する。先刻までアシリスがいた場所には氷の氷柱が地面から生えていた。三メートルほどの巨大な氷柱の上に、ヴィオラは跳躍して飛び乗る。

「リーシェの邪魔をするな」

 冷気を含んだ声に、アシリスは口元に笑みを浮かべる。唇を彩る真っ赤なルージュが不気味なほど似合っていた。

「新手ですのね。第一部隊副隊長アシリスが参りますわ」

 一瞬だけアシリスは遠くで悠々とお茶でもすすりそうな雰囲気のスイレンを一瞥した。


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