V 槍が軽やかに踊り、花弁が舞う。銃弾が死地を飛び交い、拳が大地を抉る。 「もうー。乙女に二対一とかほんと酷いですー!」 リアトリスを抉ろうと襲いかかる猛攻を交わしながら、何時も以上にニヤリと笑った。 「何をたくらんで――」 レジットは最後まで言葉が続かない。心臓を何か――否、弾丸が貫いた。血が胸から飛び散りそのまま絶命する。 「レジット!?」 狙撃、と判断したレオメルは狙撃主を探そうとして、その視界に銀髪を靡かせる人物が白銀のマスケットに似た形状の銃を構えているのが視認出来た。 思わず駈け出して殺そうと思ったが、花弁が行く手を阻む。 「だーめですよ! 私を無視していくなんていい度胸です」 「本当は二対一じゃなくて二対二だったってかいな」 信じていたわけではないが、疑っていたわけでもなかった。リアトリスの猛攻に気を取られて他の動きを気に止めていなかった――気にする余裕はなかった。 「ふふふ、乙女の口が真実を語っているなんて思ったら、駄目ですよ? 敵の言うことを真に受ける馬鹿で助かったです―それに、卑怯上等ですよ?」 挑発的な口調に、レオメルの額に筋がはいる。部下を殺された事実もあるが、それ以上に彼女が気に入らなかった。敵である前に、その立ち振る舞いに苛立った。 「――まぁ敵だから、な。殺せばいいだけだ」 レジットを狙撃したジギタリスは照準を次へ移す。リアトリスと打ち合わせをしていたわけではないが、偶々槍を振るい戦場を踊っていた彼女と偶々目線が合わさった瞬間、彼女の意図を理解したからこそ、ジギタリスはレジットを打ち殺した。 一定以上敵との距離を詰めないように、距離感覚を保ちながらジギタリスは騎士へ狙いを定め引き金を引く。その動作を淡々と繰り返す。魔導が復活したこの空間で、ジギタリスの攻撃に音はない――仮に魔導が復活していなくとも乱戦状態では僅かな発砲音を拾うことは難しかっただろう。 周囲を見渡すと、そこでは苦戦しているヴィオラが目に入った。 ヴィオラはトランプを無数に放つ。それらが円を描くと中心部から魔術が発動し爆発するが、洗練された騎士はそれらの攻撃をかいくぐる。ヴィオラは氷の魔術を放つが――第一部隊隊長カーライトの剣が氷を真っ二つに叩き折る。 「ちっ、流石に騎士団の隊長クラスになるとそう簡単には倒されてくれねぇか」 ヴィオラは舌打ちする。指先で文字を描き、魔術を発動させる。氷の槍が無数に降り注ぐ。二名の騎士を射殺すが、しかし隊長であるカーライトに致命傷を与えるどころかかすり傷すら与えることは叶わなかった。 [*前] | [次#] TOP |