零の旋律 | ナノ

Saidエリティス:騎士団衝突


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 異世界エリティスのおける統制の街前は戦場と化した。荒廃とした土地が血を吸い取り赤黒く変色する。

「あははははっ!」

 不釣り合いな笑い声が響く。総勢七十五名の騎士団を前にして、アークは高揚こそすれ絶望感はなかった。戦闘狂であるアークにとって敵と戦えることで絶望をすることはない。
 敵から奪った銃のグリップで敵の顎を下から上に付けば、相手は地面に倒れる。刃が襲いかかれば銃口部分でガードする。銃は発砲出来ないほど歪に銃口が歪んだが、アークは気にしない。武器として使えればそれだけで十分。

 その様子を眺めていた第二部隊副隊長スイレンが番傘を差しながら

「ネメシア、気をつけてくださいね」

 笑顔で隊長であるネメシアの武運を祈って告げた。“非戦闘員”な常盤の民出身であるスイレンはこれ以上戦場へ足を踏み込むことはしない。番傘を差しながら悠々とお茶を飲むのだろう――実際に飲むかは別として。

「ふざけるな。さっさとくたばればいいのに。スイレンが。ネメシアが万が一怪我でもしたらどうしてくれるんですか!」

 ネメシアが怪我をする可能性のある死地へいざまいろうとしているのを笑顔で見送るのは正気の沙汰ではないと第二部隊の隊員であるブローディアが突っかかる。愛らしい顔立ちとは裏腹に長身な身体がスイレンの前に立つ。

「何を言うのです? 傷ついても倒れない気丈な華こそ、この世で最も尊く美しいものじゃないですか。綺麗なだけの花に何の意味があると?」

 対するスイレンもすぐさまブローディアに言葉を返す。
 この世の至宝は傷つきそれでも不屈の精神で諦めない姿だ、と。

「高値の花がいいんじゃないか、誰にも触れることも傷つけることも叶わない鳥籠のお姫様こそ、が最上」
「深層の令嬢が、血まみれに這いつくばる姿とかの方が興奮するじゃないですか」
「ほんっとスイレンって趣味悪いよね、悪趣味の根源だよ。どう生きてきたらそんな悪趣味になるわけ? 理解に苦しむよ」
「その言葉そのままお返ししますよ」
「お前らほんと少し黙れ。後、私の前で堂々と発言するような内容ではないだろ……」

 ネメシアが呆れて仲裁をしようとするが、効果があった試しは一度や二度しかないので、諦めてネメシアは武器であるレイピアを洗練された動作で抜き取った。


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