U サネシスは跳躍するが、跳躍した高さまで飛び出てきた水流は襲いかかってくる。コンクリートを破壊するほどの威力ある水を喰らったらひとたまりもないと回避を続けると程なくして止んだ。綺麗な花の紋様を描いていたコンクリートはたちまちただの瓦礫と化す。 「あーあ、綺麗な床だったのによ」 「また直しますよ。私たちがユリファスを支配した後でね」 アネモネの断言と共に杖から無数の光が溢れだす。目も眩むような光にサネシスは思わず目を細める。背筋を蛇が張ったような嫌悪感。咄嗟に雷の防御壁を周囲に生み出すと、焦げる匂いが鼻につく。何かと何かがせめぎ合っている匂いだ。 視界は白で埋め尽くされており何が起きているのか殆ど理解出来ない。 また背筋に蛇が這うような威圧感。その場から飛び退くと防御壁の合間を縫って現れた無数の白い槍がサネシスのいた場所を貫く。攻撃に映るにも眩しくてアネモネの姿を発見することさえ叶わない。 サネシスは舌打ちする。相手は術者タイプで遠距離からの攻撃が専門だろう。近づけが勝機は格段に上がるが、その拳が届かなければそもそも意味がない。 ならば術同士をぶつけるだけだ、例え魔法より体術の方が得意であったとしてもそれはイコール魔法が不得意という方式にはならない。 目が眩む白の世界に、雷が亀裂を入れる。相手がどこにいるか視界で確認出来なくとも――四方八方を埋め尽く雷電で攻撃をすれば、関係がない。どこにいたとしても雷電が貫いてくれる。仮に貫かなくとも――北北西へ向かった雷電の動きが変動した。 ――そこか! サネシスは魔法による攻撃で対象がダメージを喰らえばそれで構わない。もし無理だとしても、相手が術者であるのならば、魔術による防御をするだろう。ならば防御されたことによって変化した自分の魔法を追えば対象の位置が把握出来る。 駈け出した先で拳を振るう。 「くっ――」 布に振れた感触。殴りつけて後方へ飛ばす。辛うじて相手は受け身だけとったのか、地面へ着地するサネシスへ向かって白の槍が襲いかかってくる。見えない攻撃に回避が遅れたサネシスの右手を持っていくかの如く槍が貫通する。 「つあがああっ」 激痛に悲鳴を上げる。 「……まさか殴りかかってくるとは予想外でしたよ……」 殴った先からアネモネの声が響いた。 「けれど……そう何度も私を殴れるだなんて思いあがらないで下さいね」 アネモネは眩い視界の中でも自由自在に動けた。眩い視界はサネシスのみに適用した魔術だからだ。 「はぁ? ふざけんなよ若造が」 外見年齢は変わらずとも、人族であるアネモネと魔族であるサネシスの年齢差は比べるまでもない。 「そうですね。貴方からみたら私は若造ですね。けど、でしたら――」 言葉を最後まで紡ぐことなくアネモネは杖を掲げる。 白き槍を無数に生み出し、サネシスへ向けて放つ。視界が使えないなか空気を裂く音で判断しサネシスは回避しようとするが、見えない中で全てを回避することは不可能で、次から次へと白い槍が身体を貫いていく。 電撃が身体を纏い発光する。さらなる眩しい光を生み出した雷が、白の槍を消し去る。 白い世界に赤が生まれた。ぼたぼたと地面に花を咲かせていく。 額から血が滴り、顔の半分が赤くなる。サネシスは荒い息を整えながらアネモネの姿を捉えようとするが先刻と同一の場所に軽く雷撃を放つが、素通りをした。 「ったく、同じとこにいやがれよ」 「お断りしますよ。留まるとか馬鹿じゃないんですから」 「……魔術か」 無数の場所から声が反響して響く。 「ご名答です。私は魔術師ですので、魔術の扱いが一番慣れているんですよ」 「はっ」 危機感警鐘危険信号全てが脳内の神経を伝達して回る。その速度は反射神経をも上回っていただろう。サネシスが魔法で結界を生み出すと、感覚だけでもその槍が今までのどれよりも巨大であったことが伝わってくる衝撃が襲ってきた。 [*前] | [次#] TOP |