零の旋律 | ナノ

魔族切望


 鎖のついたナイフが一閃する。悲鳴を上げる間もなく急所を抉られた敵兵は雪の上に倒れる。隠密行動をしながら策士ことカサネは動いていた。

「(本当はカルミアを彼に宛がう方が確率は上がりますがまぁ仕方ないですよね。無音の方では性格に難があり過ぎて、今はよくても今後がよくはない)」

 思い描いた未来のために切った札。

「(手持ちの札で最善切り礼をつくした方がいいですからね――魔族に対して、は。それに、死角のない最善を求めて三思九思ばかりをしていても時間を無駄にするだけ。ならば、確率が多少下がった所で、最良を取るだけ)」

 願った未来のため、策士は動くだけ。
 そこに描いた未来が例え――望む人が望んでいない未来だったとしても。



 単独行動をしていたサネシスは最初こそ敵の兵士たち相手に拳で戦っていたが、途中から魔法が復活すると魔法で応戦した。

「ちっ、雑魚が次から次へと」
「別に雑魚というほど弱いわけではないですよ。兵士なのですから。ただ、貴方達が強かった、それだけのことです」

 魔族の前に姿を現したのは魔術師だった。そう――魔術師にして、帝国の軍師アネモネ。普段被っているローブは頭上から外されている。桜色の髪は後でみつあみに纏められている。中性的な顔立ちは性別を分かりにくくしていた。頬に入れられた焼印が生々しい。

「軍師アネモネか」
「えぇご明察です。他の兵士たちは下がりなさい、私が相手をしますから」

 アネモネが命じると生き残っていた兵士たちが軽くお辞儀をしながら退散していく。

「いいのかよ? 兵力を減らして」
「ぶつける相手が違えばそこに意味なんてないですよ。戦力を計算して、さらに各々の戦闘能力だけで事を為そうとするのならば、数が足りません。もっと数がいなければ数で押し切ることは出来ませんからね。不要な消費は避けますよ」

 淡々と語るアネモネの台詞は、兵士の身を案じたというよりも兵士という数が減らされるのを好ましく思っていないようだ。

「へぇ、流石魔術師だな。同じ人族は人族でも、魔術を扱えない人を仲間扱いする気はないってか」

 挑発的な態度を続けるサネシスには自信があった。魔族の中でも濃く魔力を有する魔徒であるからこそ軍師には負けない、という自負。

「その辺の解釈はご自由に。私は軍師としてこの地に侵略した敵を排除するのみですから」

 アネモネは身の丈ほどある杖を構える。
 水色の魔法陣が先端に浮かびあがり、中心部の球体から水が生み出され蛇の如く杖に絡みだす。一定回数巻かれたそれは突如はじけ、地面へ吸収される。コンクリートの下まで潜り込んだそれが、コンクリートを破り不規則に現れだした。


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