零の旋律 | ナノ

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 無数のナイフが舞う度に、袖口から露見していたナイフの数が減っていく。カツカツと音を立てて対象を貫かなかったナイフが床に刺さっては転がる。ナイフが踊る度に、銃弾も踊る。飛び道具での応酬に終止符を打ったのは仕込み杖だった。距離を詰めて頭上から床をたたき割るような乱暴さで振り下ろされるそれをノハは受け止めず回避する。
 仕込杖をたたきつけた結果、刃零れしたが、切れ味には拘らない――対象の命を奪えるそれでさえあればいいとユーエリスは微塵も気にしない。仕込杖がユーエリスの足が立つ前に床を貫く。上空にある上体は仕込杖を手放す反動を利用して、さらに上空へ飛ぶ。ノハはユーエリスへ照準を合わせて発砲する。空中で回避行動を完璧に取れなかったユーエリスは左肩に被弾する。

「っう――」

 ただでは撃たれないとナイフを投擲するが、ノハは回避する。

「むう、いい加減攻撃当たってくれてもいいのに」

 一貫して下手に攻撃を受けない――流す方法を取るノハにユーエリスは強敵と戦える興奮と合わせて彼の強さを実感して心が重くなる。
 怪我をしてこの実力――未だユーエリスは彼に攻撃らしい攻撃を与えられていない――無傷の状態であれば、相手にしてもらえなかったのではないかと不安が過る。
 しかし、それはありもしない妄想だ、不安によって怪我をしていなければというあり得ない可能性が過るのだとユーエリスは首を振る。ざっくばらんな髪が揺れる。着地をして体勢を立て直す。

「ほんと、強いよね」

 不安を押し殺すために率直な感想を述べることにした。

「……君も存外しぶとい。けど、まぁ。これ以上の戦闘続行は怪我に響くかな」

 ノハは発砲しすぎた、と視線を一部の包帯へ向けた。僅かながら傷口が開く感覚が伝わってくる。だから、ノハは多少の怪我は仕方ないと――最低限の動きだけの安全な戦闘をやめた。
 駈け出す。瞬く間にユーエリスへ接近したノハは、銃を――剣として扱った。慌ててユーエリスがナイフを取り出す。刃と刃がぶつかり合うが、ユーエリスは押し返すことが出来ず後方へ飛ばされる。空中で体勢を立て直し、飛ばされる直線状にあった仕込杖を掴む。壁に足をつける。向かってくるノハと決着をつけるため足をばねにして一直線に飛ぶ。

 ――是で、終わりにするよ。勝てなくても、私は負ける気なんてないから。

 お互いの中間地点で、矛と矛が重なり合う。刃と刃が火花を散らし衝突をする。防いで攻撃して防いでを絶え間なく繰り返すそれは、傍から見れば人影などないほどにその場は刃が支配した空間だった。
 血飛沫が刃の合間から飛び出し床と壁にまだらを生み出す。

「っう――」

 攻防の隙間から洩れる苦悶の声色。
 刹那程の時間にして終幕を感じさせないほどに無数の剣舞が火花を散らす。
 けれど、結末は訪れる。
 攻防が終焉し、力を失った身体は床への衝撃を殺せず転がる。人が転がった跡には血の道が出来る。


「……予想より強くて、手間取ったけど、約束は果たしたから問題はないか」

 頬を滴る血を服で拭き取りながらノハ・ティクスはその場を後にした。

 死者は蘇らないから、背後を振り返る必要も、恐れる必要もない。


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