]X 「へぇ、中々やるんだな」 アークは素直に感心する。多少はやるとは思っていたがアークの予想を上回った動きだった。 アークはその辺で盗んできた銀ナイフを回転させながら、時折槍の軌道をずらす。 「ちぃ」 本来武器としての使用目的で作られたものじゃない、銀ナイフで此処までの芸当が出来るのかとローダンセは焦り始める。 アークは未だ余裕だ、何度槍を向けても交わされるし、交わしにくい攻撃は銀ナイフで弾かれる。 余裕綽々とした表情で相手にされている事に、自分の無力さを否が応でも実感させられる。 「ひゅー、お兄さん中々やるな」 アークに遊ばれていると知りながら勝機を見つけようとする時、妨害が入る。 一発の銃声。アークは銃声が成る前に察知していたのか避ける。 ローダンセはアークに集中しすぎていて銃声がなるまで気がつかなかった。脛に銃弾がかする。 「何を外しているんだ、馬鹿が」 「す、すみません……!」 ローダンセが目を見開いて周辺をみると、市民たちの一部が道半分を開けるように移動していることに気がつく。移動の音にすら気がつかない程、アーク・レインドフに集中していた。 高級な屋根のない人車に乗っている一目で貴族だとわかる男は、ボアのついたマントを羽織っている。 男の周りは厳重な警備網がひかれている。軍人が銃を構え立ち並ぶ。 興ざめだ、とアークは銀ナイフを握力で真っ二つに砕く。 「何故、此処に」 ローダンセは片膝をつきながら、理解した。この銀ナイフを武器として扱う男を雇ったのが、目の前で卑しい笑顔をした貴族だと。苦虫を潰したような顔で貴族の男を睨む。 「……私の仕事を信用していないのですか? それとも邪魔をしたいのですか?」 「いいや、貴公の実力は折り紙つきなのは理解していますが、ならばお手伝いをしてさしあげましょう、そう思いましてね」 「……邪魔を」 アークは聞こえないように舌打ちをする。アークの実力の足元にも及ばない人が何人いた処で足手まといにしかならない。 「ローダンセの居場所も見つけてくれたようですし、これで始末出来ますよ」 嘲りながら貴族の男は部下に射殺命令を出そうとする。 「俺一人で充分なものを」 邪魔をされたアークはすこぶる機嫌が悪い。 ローダンセは唇を噛みしめながらアークに槍を構え向かっていく。 いくら軍人を殺した所でアークを殺せなければ意味がない。 「おっ」 アークは武器を使って対処しようとしたが、いましがた自分で武器を壊した事に気がつき、数歩だけ後ろに下がり軍人から狙撃銃を奪って、それの金属部分で槍の攻撃をガードする。 「危ない危ない」 一瞬呆けていた軍人だが、次第に勝手に武器が使われた事を理解して講義しようとする――が、二人の自分たちでは足元にも及ばない領域の戦いに、自然と言葉を失っていく。 射殺しようとした貴族の男だが、アークとローダンセが戦っているのをみて、もう少し疲労してからの方が確実にし止められると、そこだけ合理的な判断をし手出しをしなかった。見物する。 市民の人々はどうしようと逃げようか、それとも最後まで結末をみようか判断しかねている。 やがて決着がつく――ローダンセの槍が宙を舞い、屋根に突き刺さる。狙撃銃が喉元に当てられる。 「案外やるね」 アークからすれば滅多に出てこない褒め言葉。しかしローダンセには厭味にしか聞こえない。 「ふざけるなっ。雇われたからって……お前も貴族同様金にしか目がないのか? 地位や名誉やそういったものにしか……!」 「悪いけど金が欲しくて俺は依頼を受けているわけじゃない。地位にも名誉にも興味はない」 「それならば何故!」 「俺は、俺の仕事が好きだからやっているだけだ」 どうにも――出来なかった。ローダンセのどんな言葉も通じないと最初に理解していながら、自分の無力さを実感していながら、それでも現状を打破したかった。 惨めに這いつくばって生きようとも生きていれば、反乱の機会を伺う事が出来る。 [*前] | [次#] TOP |