零の旋律 | ナノ

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 ニーディス家は探すまでもない。シデアルで有名な貴族だ。シデアル一体を取り仕切っているといっても過言ではない。だからこそ、屋敷の警備も並々ならぬものがあり、人々から近寄りがたい雰囲気を醸し出させる。実際ニーディス家の周りを不要にうろついていようものなら捕まるのだが。

「にしても、これって魔族が現れてくれないと話にならないってことだよな?」
「まぁそんな数日も貼りこむ必要はないと思いますよ。それと常々思っていたのですが」
「なんだ?」
「私の仕事は執事の仕事を逸脱していませんか?」
「元々執事の仕事をしていないんだからいいだろうが」

 三日も主の面倒を見ないで放置する。碌に仕事をしない。口が悪い。サディスト。対象は主にアーク。執事らしい仕事をヒースリアは基本的に一切しないで放置している。

「私がそんな意気揚々と執事の仕事なんてするわけないじゃないですか」
「……少しはしろよ」
「意気揚々と仕事をしている私を見たいのですか?」
「……それはそれで気味が悪い」
「でしょ? というわけで今後も仕事はしません。それに私とリアトリスとカトレア、三人も雇っているんですからもう充分ですしねぇ」
「いや、少ないから」

 元々アークの屋敷にはもっと人手がいた。しかしアークの仕事中毒によって現在は三人しか雇っていない。
 因みにその三人に関してアークは元々通常以上の給料を出している。

「そして俺は沢山給料を出しているつもりなのにリアトリスは俺の懐から金をせびっていくし」
「あくどい金なんですから、偶には普通の物資にも流通させましょうよ」
「まぁ別にいいんだけど」

 報酬には拘るアークだが、報酬の使い道は特に定まっていない。
 会話をしているうちにニーディス家付近に辿り着く。
 港町、ということもあり海が近い。ニーディス家の後一体は海だ。高台に造られていることもあり。海に落ちれば一溜りにもないだろう。そしてそこで予想外の再会を果たす。

「あれ? 眼帯君じゃないか。おーい眼帯君」

 目の前でニーディス家に用があるように木々の間でこそこそしている眼帯君――ラディカルを発見したアークは気さくに呼びかける。

「へぇ!?」

 びくり、と反応してラディカルは後ろを恐る恐る振り返るとアークとヒースリアが背後に立っていた。かなり近くで呼びかけられた事にラディカルは自信喪失しそうな心境に駆られる。

「今にも死にそうなお兄さんじゃないっすか。何故此処に?」
「私を無視するとは下等な存在でいい度胸していますね」

 アークが返答するより先にヒースリアが口を挟む。

「真っ黒執事は俺なんか視界に入れたくもないんだと思いまして」
「えぇ、貴方を視界に入れるのは主を視界に入れるのと同じくらい屈辱的ですが、しかし私と言う存在を無視されるのもそれはそれで癪に障るのですよ」
「良かった。俺、今にも死にそうなお兄さんよりは嫌われていないんだね」

 見当違いのことをラディカル云い、照れ臭そうに髪の毛をかく。

「眼帯君が何故照れ臭そうにしているのかは、甚だ不思議だが、一つ。俺は今現在別に死にそうではないぞ」

 その愛称は変わらないのかと

「んーじゃあ、何だか今にも投身自殺をしそうなお兄さん?」
「俺は自殺しない!」
「水死死体で発見されそうなお兄さん?」
「俺は泳ぎが得意だ!」
「でも、お兄さん何だか疲れた顔しているし。ワーカーホリックのお兄さんには似合わないんじゃないの?」
「ん、あぁまぁそうだが」

 疲れた顔をしているのか? とアークは疑問を覚えながらも特に言及しない。
 一々言及していたら会話が進まないからだ。ヒースリアと同様。


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