凶手と暗殺者 +++ 治癒術師ハイリと凶手ユーエリスの目的は再び帝都内に張り巡らされた魔法封じ及び魔法封じの機材を破壊することだった。 研究所内に侵入した二人の前に立ちふさがる兵士をユーエリスが手を覆い隠すほど長い袖口に隠したナイフを投擲して仕留める。 「こっちであっているんだよね?」 「あぁ」 此処から先――敵地では戦闘能力が街のゴロツキ以下のハイリが先導するわけにはいかなかった。銃弾を胸に浴びてお陀仏するのが関の山だ。 ユーエリスが血の道を作り上げ、そのあとにハイリが続く。ユーエリスは傷一つ浴びることなく進んでいく。折れそうなほどに細い脚から繰り出される強烈な蹴りや、袖口から投擲される無数のナイフの乱舞。艶やかだがざっくばらんに切られた髪が不統一に舞う。 「リィーハは心配しなくていいからね、私が守ってあげるから」 「いや、俺もお前を守りたいんだけど……」 「駄目だよリィーハは戦えないんだから」 「いや、そこまででは」 「戦力外通知だよ。リィーハがこの場で勝てる相手なんてせいぜい雪くらいなんだから」 「ぐって、俺だったもう少し勝てるぞ!」 「いや、無理でしょ。だから、私が何をしてでも守ってあげるから安心して」 刃が迫る。身軽な動作で飛んだユーエリスは刃の上に両足を揃えた。脳天へ向けてナイフが一閃する。 目的の室内へ到着したハイリとユーエリス。研究者たちがいたがユーエリスがすぐさま亡き者にする。 「さってと、これらを破壊すればいいんだよね?」 ユーエリスがハイリに確認を取る。万が一違うものだった場合は無駄足だ。 「あぁ、そうだ」 「じゃあ破壊するね。リィーハは少し下がってて」 ユーエリスが右手に握っている杖からスラリと刀を抜きとる。仕込杖だ。銀色に輝く刃の取っ手側には魔石が付着しているが、それが輝きだすことはない。魔法封じが発動している区間で、魔法を扱えるのはミルラやシェーリオルといった規格外の術師のみだ。当然ユーエリスにそこまでの魔導技量はない。杖が魔法封じの上空に浮遊している宝石のような石を破壊する。粉々に砕け散ったそれは地面に落下する前に力を失ったように消えていった。 「リィハ。魔導使える?」 ユーエリスが笑顔で問うと重たい杖にハイリが力を込める。程なくして魔石が淡い光を放ち始めた。 「あぁ。難なく使えるよ」 「ん。じゃあ他のも破壊するから待ってて」 この場にあるのは帝都内を封じている魔法封じに合わせて、発動していない魔法封じや制作途中の魔法封じが並んでいる。ユーエリスが一つ、二つとステップを踏むような軽やかさで破壊していくと、突如死の気配を感じ取りその場から飛び退く。銃弾がその場を貫いた。位置はユーエリスの心臓目掛けてだ。間一髪だ。ユーエリスは魔法封じの上で器用に立ちながら銃弾が発砲された場所へ視線を向ける。 ユーエリスにつられてハイリも視線を移動すると、包帯を巻いた男がそこにたっていた。やや薄暗い室内でもはっきりと視認出来る程、顔の半分は包帯が覆っている。ハイリにとって見覚えのある人物だった。以前シャーロアを傷つけてカトレアを誘拐したノハだ。 [*前] | [次#] TOP |