零の旋律 | ナノ

王子決意


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 時刻は少し遡り、リヴェルア王国の王城でエレテリカは帝国と魔術師へ勝利するために敵地へ乗り込んで言ったカサネの安否を案じていた。
「カサネ……」
 カサネを思えば思うほど胸にたまっていくのは不安ばかりだ。
 カサネは一緒にいてくれると約束をしてくれたが、けれど
 ――わかっているはずだ
 ――わかって、いるはずだ
 不安は増えていくばかり。大雨が降り続いて氾濫を起こす勢いで積もり積もっていく。
 原因をエレテリカはわかっている。
 ただ、それを口にするのが怖いだけだ。
 ただ、待っていたいだけだ。
 心の中で安全を求めてしまっているだけだ。

「カサネ――」

 色々な感情が渦巻いて、エレテリカの足をすくませる。

 ――本当はわかっているはずだ
 ――なのにわからない振りを俺はしている

 カサネは自分<エレテリカ>の望みを叶えるために動いてくれるが、自分<エレテリカ>が望まなくてもエレテリカが“幸せ”になるためならば勝手に動くのだ。
 エレテリカが望まなくても、エレテリカの幸せに障害があるとすればその障害を取り除き更地にしてしまう。
 カサネにはそれだけの実力と実行力が備わっていた。
 何時もエレテリカの障害を、エレテリカの預かり知らぬ所で終結させている。
 エレテリカの幸せを願って勝手に姿を眩ましたカサネ。リヴェルア王国――即ちエレテリカの幸せの障害になると判断したから、その障害を排除するために再び姿を現したカサネ。
 結局のところ、カサネはエレテリカが望んだことも望まないこともカサネの中の判断基準に沿って実行するのだ。
 だから――つまるところ、カサネはエレテリカの言うことだけを聞いているように表面上は見えても深層部分ではエレテリカの言うことすら聞きはしない。
 誰も言葉にも耳を傾けないのだ。一人で判断し、一人で行動し、解決する。それがカサネ・アザレアだ。
 故に、エレテリカの幸せに直結することがであれば――エレテリカとの約束を反故にすることがあっても――不思議ではないのだ。
 その可能性は大いにあることを長年傍で過ごしてきたエレテリカは知っている。

 ――俺は俺を偽り続けようとしても結局事実を知っている。
 ――ただ、見てみない振りをしているだけ。目を逸らし続けているだけ。

 エレテリカがリヴェルア王国において尤も狙われる場所でありながら、尤も安全な場所である王宮から外へ足を踏み出すことをカサネは望んでいない。
 けれども

「エリーお兄様もリーシェ兄さんも動いているのに、父上も母上も皆が皆動いているのに俺だけ、安全な場所に籠っていてどうするんだ」

 例えそれが――

「カサネの意思に反することであっても」

 彼自身が望むことだから――エレテリカは踏みだした。そして王宮を後にした。



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