零の旋律 | ナノ

Saidユリファス:策士実行


 Saidユリファス
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 雪の大地を踏みしめながら帝国の首都を見下ろせる高台の屍の上に佇む一団が、眼下の帝国を見下す。
 その最前線で風が流れるままに銀髪を靡かせているのはヒースリアだ。手には白銀のマスケットに似た形状の銃を己が半身の如く握っている。屍や血によって染められた積雪さえも、彼を一枚の絵として表現するための道具に過ぎないような美貌は不機嫌に顰められていながらも、口元は弧を描いて笑みを表現していた。

「さて、私の作戦に従うのは不服でしょうが動いてもらいますよ。無音の殺し屋リテイブ・ロアハイト」

 誰も近づけなかった空間を形成していたヒースリアの元へ土足で踏み込んだのは、リヴェルア王国の軍師カサネ・アザレアだ。大粒の黒檀の瞳がヒースリアを見下す。
 見下されるのが不快で、ヒースリアこと本名リテイブ・ロアハイトは立ちあがる。立ち上がれば、身長的に十センチ以上違うので見下されることはない。

「この状況は貴方とて望んだものではないでしょう?」
「……わかっている。今だけは不承不承だけどお前の命令に従ってやるよ」

 リテイブと呼ばれたから猫の皮をはいで本性で対応する。絶対零度のごとき冷たさは、心の底からカサネ・アザレアのことが嫌いだと伝えている・

「えぇ、そうして下さい。何せ――貴方が本星なのですから。期待していますよ」

 対するカサネもリテイブのことは嫌いだと温かみの感じさせない口調で応対する。
 一目見た時からお互いのことは寒気がするほどに嫌いだったのだから、是でいい。

「ふん……勝手にしておけ」
「えぇ、そうしますよ。だって貴方なら死なないでしょう?」
「あぁ。死ねないな。相手が誰だろうと――あいつを殺す前に死ぬなんて御免だからな」
「私としても本星が目的を達成出来ずに死んでしまわれては困ります今後の作戦に支障をきたしますからね。生きて下さいよ」
「てめぇのために動くわけじゃねぇからな」
「私のために動かれたらそれこそ気色悪いですよ。では、移動しましょうか。この世界ユリファスにおける私たちの敵地へ――」

 眼下に広がるは帝国の首都。
 魔術師と手を組んだリヴェルア王国における明確な敵。


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