零の旋律 | ナノ

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「さて、ミルラとやらの会話はこれ以上必要ないだろう。冥土への土産は渡した。私は魔族だが“魔術師”の味方だ。侵入者を排除させてもらう――私たち<エリティス>の野望を果たさせてもらうよ」

 ジギタリスは理解した――彼女がアークと本気であいまみえなかった理由を。
 彼女は魔族だ、故にいくらエリティスで生まれ育ったとしても魔法封じによって力を制限される。魔術に造詣が深くないジギタリスだが、空間を裂いて現れたユエリの魔法の実力が低いとは思えない。
 魔法封じ破壊に向かった自分たちを何としても止めようとしなかったのも、ユエリにとって魔法封じは不都合な存在だったからだ。
 魔族でもエリティスで育った彼女にとって仲間とは魔術師のことをさす。
 だから彼女は魔法を用いてユリファスを殺害しようと動く。
 アークが動くよりも先手必勝とばかりにヴィオラがトランプを投擲する。普段は六枚投げて六を描いてから爆発させるが本来その必要はない。ただ、相手を騙すための手段として用いているだけだ。しかしユエリ相手には必要ないと判断する。

「あっ! 俺の獲物!」

 思わずアークが呆然とするが、ユエリが動き出したことでそれまで待機していた騎士団も動き始めた。強敵はユエリだけではないと判断する。
 ジギタリスが周囲を眺めながらある一点に視線がいく。
 ――あいつ……

「私を舐めているのか? その程度の攻撃で殺せると」

 爆風を蚊にさされた程度にも気にしないで無傷にユエリは宙に浮いたままだった。
 ホクシアとヴィオラが構える。だが、ユエリは嘲笑うかのように言葉を告げる。

「魔族に対する名乗りが適切かどうか私は知らないが、ユエリ・クライニングが参る」

 宙を闊歩して襲いかかる。掌の魔法陣から生み出された閃光のごとき氷柱がヴィオラとホクシアへ向かう。

「雷牙!」

 ホクシアが短く詠唱をすると雷が氷柱を蹴散らそうと大地を這うが、雷が全ての氷を破壊出来ず飛来してくる。

「ホクシアさがれ」

 ヴィオラが一歩前に出て結界を展開する。結界にひびが入ったが何とか保てた。
 しかしすぐさま接近したユエリの刀による一撃で結界が破壊される。ヴィオラを庇うように、ホクシアの刀がユエリの刀を受け止める。空中からの攻撃にホクシアは踏みとどまれず後退する。すぐさまヴィオラが魔術を詠唱し攻撃するが、片手で作り上げた結界に阻まれる。
 ホクシアの軌道が煌めきユエリへ襲いかかるが、刀と鎖を巧みに操ったユエリには刃が届かない。

「年若い魔族と魔術師が長き年月を生きた私に勝てると思うな!」

 雷光が迸る。眩き光は薄暗い世界に光をもたらしたかの如く明るい。照らされた稲妻がホクシアとヴィオラへ向かって落撃する――熱を持つ雷光は大地を焼き、迸る雷光は大地を裂く。人体を一片も残さない勢いで展開された魔法は、だがしかし――彼と彼女の周辺だけは全くの無傷だった。水の膜をイメージさせる結界が彼と彼女を“守っていた”第三者の手によって

「な――!」

 ユエリは驚愕する。青白き魔法陣がいくつもの螺旋を描き、神秘的な空間を作り出す、その中心には――柔らかな白髪、白髪の間から見える色は紛れもなく金の瞳、頬には赤き宝石のような何かが埋め込まれている。緩やかな白を中心とした洋服に身を包み、隣には真っ白の魔物を侍らせた青年が立っていた。

「み、ミルラ!?」
「どうして!?」

 驚愕したのはユエリだけではない。ホクシアとヴィオラも同様だ。ヴィオラはそこで自分の所持していた結晶が僅かに発光していたことに気がつく。結晶を媒介としてミルラは扉から移動してきたのだろう。一瞬とも言える僅かな時間でそれが出来るミルラを心から恐ろしいとさえ思う。
 この魔族は何もかもが規格外だ。けれどこの上なく頼もしい。


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