零の旋律 | ナノ

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 ユエリが深く被っていた帽子を放り投げる。前髪を抑えつけていた枷がなくなり靡いた前髪の隙間から瞳が見え隠れするから、言葉が出ない。

「なっ――!?」

 二の句が繋げないのはヴィオラだけではなかった。揺れる髪の隙間から見える瞳の色が金色だったから。“金色の瞳”は魔族の証。人族が持ち得ない瞳の色。人族が生まれ持つことはない、魔族の印。人族と魔族を区別する絶対の証。
 それを――“人族”の世界であるエリティスの民が有していた。
 その事実はユエリが存在する以上、覆せない。

「ど、どいう……どういうことだよ」

 ヴィオラの声が震える。

「勘違いしているようだから、説明してあげよう」

 そう言って、彼女――エリティスには存在しないはずの金の瞳を持った“魔族”が口を開く。

「本来なら世界エリティスは世界ユリファスへ干渉をすることは出来ないんだ」
「当たり前だろ? 俺たちが結界を張っていたんだから」
「違う。そういう意味ではない、そういう次元でもない。そもそもが――“見つけられない”といっているのだ」
「どういうことだ! それにお前は何者だ! どうして魔族がこの世界にいる!」

 ヴァイオレットが帰還したように、彼女が世界ユリファスからやってきた魔族だとは到底思えなかったし、仮説として浮かびすらしなかった。尤も、仮説が浮かんでいたところで、それは全くの見当外れであった。

「答えは簡単だ。まさか最初から“魔術師しかユリファスへ行かなかった”と思っていたのか?」

 回答。わかりたくもない、答えだった。

「私の祖先は、世界と世界が繋がっている時、興味本位で此方の世界へ渡ってきた」
「……っみ、ミルラ。そんなことが……ありえるのか」

 ヴィオラは誰かに否定してもらいたくて、否定の言葉が欲しくてミルラから渡された魔法で生み出された連絡手段用の石に呼び掛ける。
 魔法封じが世界を覆っていた間は使えなくとも――魔法封じがなければ通信することは容易い。もとより、魔法封じの効力が充満していた時でさえ、石を媒体として魔法を扱えたミルラだ。通信しようとすれば何時でも出来たのだろう。
 触媒を通して世界と世界を螺旋状に束ね通信を可能とするのはミルラやシェーリオルクラスの術使いでなければ不可能だ。ヴィオラは魔法によって生み出されたそれを渡されたにすぎない。

『……あぁ』

 切望していた否定ではなく望まざる肯定にヴィオラの足元がふらつく。ホクシアも額を掌で抑えて表情を隠していた。

「そもそも、おかしいとは思わなかったのか? 何故魔術師が魔法師たちの世界を侵略することが出来たのか」
「は? どういうことだ」
「どういう……ことよ」
『そうか、そういうことか』

 首を傾げるヴィオラとホクシアとは対照的に石からは合点が言ったミルラの声が聞こえる。

「どういうことだ?」

 シェーリオルの問いに僅かな沈黙――人族とは会話をしたくないという意志の表れか――の後ミルラが答える。


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