零の旋律 | ナノ

繋げられた真実


 統制の街を目前にしてアークたちは歩みを止めた。統制の街には侵入させまいと、騎士団総勢七十五名が待ち構えていたからだ。

「ひゅーっ」

 行く手を阻む障害にアークが思わず口笛を吹く。

「全く持って緊張感のない主ですよねー。一度、捕虜になって尋問されればいいんです」

 リアトリスがいつも通りの軽口を喋りだす。

「おい、緊張感のないレインドフ家黙れ。口縫い付けるぞ」

 ヴィオラが物騒なことを口走るが、言い返している辺り緊張感がヴィオラもない。

「全く、誰も緊張感がないわね」

 ホクシアは思わずため息をついた。けれど下手に緊張感がありいつも通りに刃を冷酷に震えない可能性を危惧しなければならないくらいならば、なくて構わない。
 騎士団七十五名の前に立つように――黒と紫が混在した歪な空間が現れる。空間を引き裂いたかのような歪さは、冥府へ繋がっているのではないかと思えるほどに不気味だ。
 そこから漆黒の人物――ユエリ・クライニングが姿を顕現させた。

「へぇ」

 アークの口元に笑みを浮かべる。ジギタリスからあの時本気で戦っていなかったと言われてから再戦したくてしょうがなかった。戦闘狂としての血が騒ぐ。

「随分と大層なおもてなしをしてくれるのね」

 ホクシアが愛刀を抜きながら問う。何時でも攻撃出来る構えだ。

「私は必要ないといったのだが、ヴァイオレットが言うもんでな。まぁ確かに邪魔をされては困るからな、お前たちは此処で始末させてもらうよ。仲良くお茶をしようと誘いかけるわけでもあるまいからな」
「そりゃそうだ。お前らと和解することだって俺は望まない」

 ヴィオラが断言する。

「和解? 私たちだって望みはしないさ。私たちの目的をたった数名のお前たちに覆されてはたまらない」

 ユエリは鎖付き刀を抜き両手に構える。

「邪魔も何も――お前たちが勝手に侵略をしてきているだけだろ。今さら干渉をしてくるな。過去にお前たちはこの世界に残ることを選んだ。争いを止めることを止めた。それが今さらユリファスを侵略しようだなんて虫のいいことを考えるんじゃねぇよ!」

 ヴィオラがヴァイオレットに怒鳴ったように、ユエリに対しても激怒する。
 レス一族が争いを繰り返すだけの世界に嫌気がさして一塁の奇跡にかけた。その奇跡は叶った。
 世界はもう一つ存在した異世界ユリファス。そこの原住民であった魔族と話し合った結果、移民することが叶った。
 けれど、全ての人族が移民を望んだわけではない。半数以上がこの世界に残る道を選んだ。
 そしてユリファスはエリティスとの関係を絶った。世界エリティスに残った魔術師が再び世界ユリファスと出会わないように。

「今さら――今さら俺たちに干渉してくるんじゃねぇ。てめぇらがこの世界に残ることを選んだんじゃねぇか。この世界が終わりへ進んでいるから侵略って虫がよすぎるだろ」
「……異世界ユリファスにおける侵略計画は別に此処数年で立ち上がったものではないぞ? そもそも」
「そもそもなんだ! 例え百年や二百年、三百年前からだろうと関係がないだろ! あの時代の人じゃないから関係ないとかそういう話でもねぇ! そんなこと」
「お前らは真実を知らない」

 ヴィオラの言葉を遮ってユエリが告げる。凛とした口調がヴィオラに二の句を繋げさせなかった。

「お前たちは知らないだろ? 何故エリティスがユリファスに干渉出来たかを異世界まで来た土産だ、教えてやろう」
「はぁ? そんなものは――!?」

 ヴィオラの言葉が単語を忘れたかのように止まる。


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