零の旋律 | ナノ

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 アークはカルミアと別れた小一時間後、ローダンセを見つける。写真で確認するまでもなく本人と確信した。必死に軍人が探しても見つけられないローダンセだが、アークはそこいらの軍人とは実力が違う。
 少ない手掛かりでターゲットを確実に見つけ出す。
 密かに始末しようとしたが、ローダンセも馬鹿ではない。狙撃や暗殺の可能性を考え、それらが非常にしにくい場所にいた。ならば、何処で殺そうとも同じと判断し、アークは姿を現す。

「……何か私にようか?」

 首を傾げながらも鋭い眼光でローダンセは問う。二十代後半の容姿、薄茶色の髪を肩で揃えている、黒い瞳は鋭くそして慈愛に満ちているようだった。白いロングコートの服装に身を包み、槍をホルダーで止めている。周りにはローダンセの数少ない心からの協力者だろう面々が四人。
 此処は裏路地といってもいい場所。建物が丁度いい目くらましになって人々から見えることは少ない。
 古ぼけた建物は少しの衝撃で崩壊しても不思議ではない。

「ローダンセ・クレセントで間違いないか?」

 本人だと確信していても、確認をとる。

「否定したところで君は信じるのかな?」
「いいや、信じないね」

 アークはその辺で調達した銀ナイフを手遊びするように回転させる。
 ローダンセは木箱に座っていた身体を起こし、槍に手をかける。好意的な相手にはどう見ても見えなかった。貴族風の服装に身を包んだアークはこの場に酷く不釣り合い。ただの市民とも到底思えない。

「君は私を殺したいのかな?」
「まぁ殺したいけれど、別にあんたに私怨はないよ」

 殺したいのかな? の部分がアークにとって目障りだから殺したい、の意味に聞こえたため、私怨ではないと告げる。

「ならば――」
「俺は雇われただけだ。あんたに恨みも情も持ち合わせていないよ」
「そうか。一つだけいいか?」

 ローダンセは尋ねる。アークは何かと促す。

「自意識過剰と捉えられても構わないが、あんたが俺を殺せば、この腐敗した国に立ち向かおうと――貴族や王族をなんとかしようとするものはいなくなり、市民は死にゆくだけだ」
「……だから何?」
「なっ」
「俺は、俺の仕事が達成できればいいだけだ。俺は依頼があれば例えそれがどんな聖人君子だろうが、救世主だろうが殺すよ」

 ナイフを掌で半回転させた後、壁に突き刺す。ナイフの刃先が零れることなく、一点に集中して穴が壁に開く。

「だから俺があんたを殺し、その結果国がどうなったとしてもそれは俺の関与する所ではない」
「……そうか」

 ローダンセは静かに槍を構える。この男に言葉は不要。いくら言葉で説いたところで、いくら市民の暮らしぶりを伝えても、どれだけ王族や貴族が理不尽な事を口にしても、心が動くことはないと判断した。
 そしてそれは紛れもない事実。アーク・レインドフは仕事に私情を挟まないし私情を抱く事もない。
 ターゲットと決めれば殺すだけ。
 一点集中した鋭いつきにアークは後方にジャンプする形で交わす。
 アークが後方に下がったことで裏路地から商店街に出る形になる。人々は突然飛び出してきた男に何事かと視線を移動させ――槍を持った市民の唯一の希望であるローダンセが出てくる事に驚愕する。
 そして一瞬でアークが自分たちの敵だと認識し憎悪の瞳を一斉に向ける。
 しかしローダンセの邪魔はしてはならない、自分たちが出しゃばった所で何も出来ないと、ローダンセの邪魔をしないように遠巻きに下がってい傍観するだけだ。
 誰も自分に被害がいかないように――。
 パリ、お煎餅を食べる音も周囲のざわめきによってかき消される。


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