零の旋律 | ナノ

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 だから、ヴァイオレットは騎士団第一部隊隊長カーライト、第二部隊隊長ネメシス、第三部隊隊長レオメルを呼びだしていた。その三名に加えて、第一部隊副隊長アシリス、第二部隊副隊長スイレン、第三部隊副隊長レジットが集まった。騎士団は全部で五部隊構成されており、その中でヴァイオレットが指揮権を持つのは第一〜第三までだ。

「是から統制の街にユリファスの侵入者六名がやってくる、そいつらを抹殺してもらいたい。指揮権はユエリに委任する」
「了解っと、しかしよヴァイオレット。三部隊全部を使って排除するもんなのか? 相手は高々六名だろ? 一部隊における構成人数二十五名、それが三つで七十五人だぜ? 十倍以上の数をぶつけなくてもいいだろ」

 一応の上司であるヴァイオレットに、軽い口調で疑問を呈したのは第三部隊隊長レオメルだ。明るい茶髪を逆立てて、着崩した服装は一見すると騎士団に所属しているとは到底思えない。年の頃合いはヴァイオレットと同じくらいだろう。

「念には念を入れてだ。大体、油断して勝てるような相手ならそもそもこの世界に侵入するための精鋭として送り込まれるわけないだろう」
「そりゃーそうだな。魔法封じも破壊されてしまったことだしな」
「……わかっているよ。だから、全力で潰すんだろ」
「はいはい。まーあ今の上司はアンタだから、俺はアンタに従うよ。第三部隊レオメル、以下副隊長レジット、計二十五名の命を持ってして、相手を抹殺しよう」

 敬礼する動作は、今までの雰囲気と一点、真摯そのもので場の空気が一変する。

「第二部隊隊長ネメシア、副隊長スイレン、計二十五名の命を持ってして任務を遂行します」
「第一部隊カーライト、副隊長アシリス以下同文のため省略します」

 レオメルに続いてネメシア、カーライトも敬礼を続ける。

「じゃあ、頼んだ」
「それにしてもよぉ、スイレンは此処に籠っていた方がいいんじゃねーの」

 真摯な雰囲気が一点、普段通りのお茶らけた雰囲気に戻ったレオメルが第二部隊副隊長であるスイレンを揶揄する。

「問題ありませんよ」

 軽く笑顔でスイレンは流そうとしたが、第一部隊副隊長のアシリスが流させなかった。

「私も同感だわ。常盤衆でもない常盤の民で非戦闘員の貴方が戦場に至って邪魔なだけじゃないの」

 妖艶な体型を隠さずに主張しているアシリスがスイレンを睨む。騎士団――民を守るのが役割の戦闘集団において、スイレンは異質だった。常盤の民とは、街の外――荒廃した大地を転々とし独自の文化を築き上げてきた者たちを指す。常盤衆とは、常盤の民を守るための武装集団だ。三つの街によって形成されている国家にとって常盤の民は目の上のたんこぶであった。故に、東方を主として生活拠点を築いていた常盤の民は、常盤衆が騎士団に滅ぼされたことにより身を守る盾を失った結果、東方を拠点にしていた常盤の民は、街に加わった。

「私の御心配などされなくても問題ありませんよ。せいぜい私は怪我人の手当てでもしていますから」
「私は貴方が戦場にいることが問題だと言っているのですわ。ネメシアの金魚のフン見たく付いてこなくても、いいじゃありませんの」

 鼻でアシリスは笑って侮蔑する。
 常盤の民は街に加わる条件として一切の武力を有することを禁じられた。故に、騎士団に所属していても、独自の文化によって築き上げられた格好をして常盤の民であると体現しているスイレンに武力を持つことは許されない。それなのに騎士団に所属しあまつさえ武力を有さずに副隊長になったスイレンのことがアシリスもレオメルも端的に言えば“嫌い”だった。


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