零の旋律 | ナノ

研究者作戦


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 統制の街における中心部、監視の塔の内部は螺旋階段が描き、螺旋に沿って階段の所々に部屋が設けられている。最上階はこの世界における最高責任者が滞在する場所で、アーク達が目指す場所だ。
 螺旋階段は下から順に階位や重要度が低く、上にいく程に高くなっていく。
 最上階の一歩手前はこの世界を“監視”している区間、その下は重要機密や文章が保管されている区間、そこから数段下がった場所に設けられた魔法封じに関する書物のある区間にヴァイオレットは移動魔術によって帰還していた。

「くそっ」

 書類を全部ぶちまけたい気分にかられる。
 製造方法は熟知しているとはいえ、世界規模で覆うほどの魔法封じは怱々出来るものではない。ましてや“完成品”における魔法封じの製造方法が“エリティスの魔法封じ”と“ユリファスの魔法封じ”では完成部分において異なっているのだ。大本が違っても細部が違う。ユリファスの魔法封じの方に精通しているヴァイオレットでは、エリティスの魔法封じを容易に製造することが出来ない。
 相手を舐めていたわけではない。舐める要素がないことくらいこれまでの経験上理解していた。それでも――相手の実力がヴァイオレットの想定を超えていた。

「(どうする。このまま引き下がるわけにはいかない、魔法封じが破壊されて支障があるのは――あの王子様だけだ、それ以外の面子に関してはたいして問題がない。ならば、下手に作戦をかえるより、一気にたたきつぶす方が効率的か)」
「偉く不機嫌だな」

 ヴァイオレットが机に両肘を乗せて思考していた時、背後から声がする。

「うるせぇ」
「口が悪いし、目つきも悪いぞ。お前は何時も気だるそうなやる気のない表情だったじゃないな、何を何時になくやる気になっているんだ?」
「――魔法封じを何度も破壊されたら、俺だって機嫌の一つや二つ悪くもなるっての」
「何度も? そうか、あちらでも破壊されたんだなったな。失態だ、これ以上失態を重ねたら――」
「言わなくてもわかっている」

 背後を振り返り、会話の相手を鋭く睨む。書物が大半を占める部屋の内部に、紫と黒が混在した歪な空間が移動した痕跡として残っていた。
 その前に立っているのはユエリだ。やがて、歪な空間は消失する。

「お前はあれだな、面白そうだって顔をしているな」

 ヴァイオレットはユエリの表情が気に入らなくて舌うちをする。

「面白くなってきた、とは思うな。だが問題はないだろう、魔法封じを破壊されたことによるアドバンテージは無くなったが、それでも我々が有利だということは覆らない」
「……あいつらの実力を間近でみていないから そう断言出来るだけだろ」
「アークとかいう奴は軽く手合わせし実力は大体わかったが、だが高々六人に何が出来る? それをお前が恐れていると言うのなら、単にヴァイオレットの実力不足という話しだろ?」
「てめっ」
「事実を指摘したまでだ、私に突っかかられても困るよ」

 ユエリは肩をすくめる。余裕な表情が癪でヴァイオレットは銃に手をかけようか迷った。

「……ユエリ。お前に指揮権を譲渡するから、統制の街へ侵入される前にあいつらを殺せ」
「ほう」

 ユエリの口元が弧を描いた時、扉を三回ノックする音が聞こえる。ヴァイオレットが入れ、というと六名の人物が入室してきた。会議も出来るように広く作られている部屋だが、その大半を書物が埋めていることもあって、八人部屋に固まると窮屈さを若干感じる。

「お呼びですか?」
「あぁ、呼んだ」

 ヴァイオレットは帰還してすぐに部下を使って伝達を出していた。
 ユリファスに帰還したヴァイオレットに与えられた権限はユリファスを一番熟知しているという理由と元から研究者であったために魔法封じの最高責任者及びユリファスの侵入者を撃退する上での騎士団における三部隊の指揮権を委任されていた。


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