U 「本当に主は呆れるほどの戦闘狂ですよねー。うっかり怪我を忘れて重傷になったらどうするんですかこの馬鹿主は。私は背負って運んであげる程優しくないんで、両足掴んで引きずりまわして差し上げるですよ」 「その場合、もっと怪我が酷いことになるな」 ジギタリスが淡々とリアトリスの言葉に応じる。 「いやぁ主の怪我なんて知ったこっちゃないですし―。それともジギタリスは主の怪我を心配しているんですか―?」 「いや、全く心配はしていないが」 「ですよねー」 けらけらと笑うリアトリスと淡々と応じるジギタリスの会話は何処か噛み合っていないようにも見えるが、見えるだけで会話自体は成立していた。 「ってか、移動魔導は使えないほどに負担がかかったんだろ? 下手に魔導を扱って大丈夫なのか?」 ヴィオラが治癒術を使うシェーリオルを前に今さらながら疑問をぶつける。 「ん? あぁ。大丈夫だ、移動魔導も短距離程度なら扱えるし、少し休憩すれば反動も収まって問題なくなるだろう、けど此処から統制の街までも長距離な移動魔導は使えるようになっても使わないでおく、今後の戦闘を考えたら出来るだけ回避したい」 「わかった。移動魔導を使わせたから今後戦えません、じゃ困るしな。そういえば……ヴァイオレットもあの時移動魔術で逃走していたけれど、小規模なものだし、予めあいつはマーキングしていただろうから、あいつは元気そうだな」 忌々しそうにヴィオラははきすてる。大怪我をさせられた個人的恨みがヴァイオレットに対しては強かった。ましてや、最初に遭遇した“魔術師”だったからこそなおのことヴァイオレットへの感情は強い。 「……そういえば、アーク」 ジギタリスは怪我が和らいだアークへ声をかける。 「なんだ?」 「……お前と戦闘をしたユエリとかいう女だが」 「ユエリがどうかしたのか?」 「私の見立てでは、あの時は力を抑えている様子だったな」 ジギタリスの瞳が捉えたユエリの力はもっと上に見えた。だが、アークとの対戦ではその力の片りんしか振るわれなかった。 「手加減されたってことか?」 「わからない。ただの様子見だから全力を出さなかった可能性もある」 「けど、おかしな話よね」 ホクシアが会話に加わる。 「どういうことだ?」 「だってそうでしょう? エリティスの住民にとって魔法封じを破壊されて好都合になることなんてないはずよ。だったらあの場での戦闘行為を続行して、少しでも魔法封じを守るほうが効果的だとは思わない」 「それもそうだが……しかし、あの女の真意はわからないにしても実際あの場では六対一と不利な場面だった、故に全力を出さずに撤退出来る余力を残してたという可能性も捨てきれないだろう」 「そうね、確かにその方が理由としては納得出来るわ。魔法封じを破壊される可能性を 上げるなんて馬鹿な真似をするとは到底思えないものね」 ジギタリスの言葉にホクシアは頷く。とはいえ、真意はユエリ本人に聞く以外に判明することはない。 「で、どれくらい休憩する予定なんです―?」 会話が途切れた所で、空気を呼んだのか読んでないのか、リアトリスが能天気に尋ねる。 「最低でもあと三十分だな」 ヴィオラが端的に答えた。 [*前] | [次#] TOP |