零の旋律 | ナノ

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 戦闘に特化した魔術師たちが妨害しようと魔術を駆使するが、ヴィオラが防ぎ、接近してきた相手にはホクシアの刀が、走り出したアークがその辺にあった紐を、リアトリスが槍を振るい、遠距離からはジギタリスが銃を放つ。

「てめぇどんだけ規格外なんだよ!」

 ヴァイオレットの叫びはこの場の人全てを代弁した言葉だ。
 魔導を詠唱しているのは、黄金の瞳すら持てない人族。魔術を失い魔石に縋ることでしか術を扱うことが出来ない、人族。
 術を扱う上で、尤も適性の低い人がこの場において魔導を行使する、それは異常にして異様、そして異質。

「天かける翼、天空の輪を紡ぎて」

 美声が奏でる呪文。黄金の粒がこの地帯一体を覆い始める。だが、シェーリオルの表情は険しかった。半ば怒りに任せた魔導の発動。
 シェーリオルは元々魔導を扱うのに詠唱をすることは殆どない。詠唱するのは最上級といっても過言ではないクラスの魔導のみ。つまり、詠唱を始めたと言うことは――この魔導が普通ではないことの証。
 シェーリオルが詠唱をしないのは実際の所、呪文を覚えていないのだ。覚えずとも感覚で魔導を扱えてしまうシェーリオルにとって詠唱とは不要なもの。だからこそ、シェーリオルは殆どの魔導呪文を知らない。だが、いくらシェーリオルといえども全ての魔導を詠唱破棄出来るわけでもない。

「授かりしは眩き破壊と慈愛の旋律」

 詠唱が紡がれるが、黄金の粒が不揃いに揺れる。魔族であるホクシアはこの現象が現す意味をすぐに理解する。

「これは――シェーリオルやめなさい! これ以上の魔導は」

 刀を振るうのも忘れて叫ぶが、これ以上の魔導は危険、その言葉は紡げなかった。何故ならば――見なれた“声”が耳に入ったからだ。

『水面の調律によりて、汝における力を癒せ』
「ミルラ……」

 ヴィオラが首から下げている結晶が淡い発光し、そこから魔法を詠唱する言霊が流れる。
 ヴァイオレットが銃を連写するのを氷の盾で防ぎ、氷柱で攻撃をするが、軽やかな動作で回避される。
 信じられない現象だった。
 魔族であるミルラがシェーリオルの魔導を援護するために世界ユリファスから魔法を繋いでいるのだ。魔法封じで魔法が使えないこの世界まで。魔術と魔法の螺旋が描く道を魔法が走る。

「……大地を凍らす蒼き結晶、絶対零度への導き」

 目線をジギタリスへ送る。ジギタリスが頷くと同時にヴァイオレットの相手を引き受けた。
 ヴィオラは詠唱を始めた――人が使い捨てにされた現状にヴィオラは心を動かされたわけではない。ミルラも恐らくは同様だ。誰よりも人族を憎んでいる魔族が、人族のために手をかすとは思えない。
 だから、この助太刀は未来を紡ぐための力。魔法封じを破壊するための力だ。
 三重に重なり合う魔導と魔法と魔術、一つに組み合わさるがごとく、白銀の魔法陣と黄金の魔法陣――そして百群の魔法陣、旋律が旋律を生み、一体を魔法陣の配下へと作り変える。
 世界の変動、割れる音。詠唱されし魔が紡ぎし力は絶大にして圧倒的。
 故に、その力の付加に耐え切れなくなった魔は砕け散るだけのこと。
 故に――魔法封じがこの世界から破壊されたのは当然の摂理。魔の付加に耐えきれなかった力によって、破壊された。
 透明の欠片が世界を歪めるように舞、消える。



「やはり、あいつは生かしてはおけないな」

 稀代の魔法師はそう決断する。水面に映し出される光景、結晶と結晶が繋ぎ合って出来た回廊を眺めながら呟く。隣に寄り添う白き魔物は彼の決断を尊重するかのようにそっと温もりを近づけた。


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