零の旋律 | ナノ

V


 だが――全ての人がアーク達と同類ではない。ホクシアと同じ魔族ではない。

「お前らは――“民”を何だと思っているんだ!」

 それは――王族らしくないシェーリオルが発した王族の言葉だった。声には隠しきれない怒気が含まれている。それすらシェーリオルらしくない。
地鳴りするような怒鳴り声に、研究者たちは一瞬だけ呆然とするヴァイオレットですら、呆けた。ユリファスの人からみれば、エリティスの人など全て敵だからだ。
 敵が敵の命をどう使おうが、相手からしてみれば等しく同じ命に過ぎない。
 戦争における敵世界の犠牲者に激怒する必要性が理解出来ない。
 シェーリオルの怒りを前にしてホクシアは意外だ、と思う。飄々としていて必要ならば他人の命を奪うことをいとわない。王族とは到底思えないような王族。けれど――それでも王族である事実は変わらなかったのだ。
 一日限りの使い捨てされる運命。
 魔法封じの中を凝視するまでもない、無数の人が閉じ込められたちっぽけな器の中には子供から老人まで老若男女の区別がない。ましては複数人――その数は一ケタではない。正確に全てを見たわけではないが、それでもその数は十や二十では済まないだろう。それだけの人間が来るかもしれない異世界の人から戦力を奪うための道具として『使い捨て』にされたのだ。
 実際にユリファスから自分たちはやってきた、けれどそれで報われるわけではない。
 彼らの人生がどんなものだったのか――彼らが犯罪者だったのか、それは知らない。自らエリティスのための生贄として志願したのかもしれない。
 それでも、その現状にシェーリオルは確固たる怒りを覚えた。

 アークやリアトリスにジギタリスといった裏に生きていた人族が覚えない怒りを、魔石なしで術を扱えるからと恐怖され人族に殺され、魔族に身を寄せて生きてきた故に人族が感じない怒りを、人族に虐げられ続けてきたからこそ、湧き出ることのない怒りを、リヴェルア王国の第二王位継承者シェーリオル・エリト・デルフェニは怒りを感じ、覚え、湧き出た。

「ふざけるなよ。お前ら――」

 怒気をはらんだ言葉と共に、シェーリオルの足元に黄金の魔法陣が展開される。“ミルラの魔石”が嘗て類を見ないほどに輝き出す。

「ちょ! 何を!」

 ホクシアはその現象に驚かずにはいられない。シェーリオルは魔法封じの力が尤も強いこの場で魔導を発動させたのだ、溢れる膨大な魔導の力は恐らくシェーリオルが扱う魔導の中でもトップクラスの威力を誇るものだろう。果たしてこの状況で制御出来るのか、とホクシアは思う。
 普段のシェーリオルであれば難なく扱えたとしても此処は状況が違う。魔導が使えない中で無理矢理魔導を扱い失敗すれば――その代償は大きい。

「魔導だと!?」

 驚愕したのは仲間だけではない。ヴァイオレットや魔術師たちは眼下の光景に驚愕せずにはいられない。
 魔法封じが一番強いこの場所で魔導を扱う青年が目の前にいるのだ、是は嘘だ、と叫びたい衝動にすら駆られている。思わず、攻撃することも忘れるほどに。この現実から目を逸らしたかった。
 最初に我に返ったのはこの場を仕切るヴァイオレットだった。ホルスターから改造銃を取りだして滑らかな動作で発砲する。銃弾はヴィオラが描きだした氷の盾によって塞がれた。


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