零の旋律 | ナノ

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「無駄話は終わりだ。お前らを殺さない限り、俺らも安心出来ないんでな、それに何時までも此処に籠っているわけにはいかない」

 制止させていた手をさっと引くと、研究者の他に戦闘に特化した人が前に出る。エリティスの魔術師に魔法封じは関係ない、魔法封じがある限り絶対的なアドバンテージを得る。
 タイミングを同じくして、魔法封じを破壊すれば『魔法』が自在に扱える。『魔法』が扱えるようになれば、戦闘における足手まといであることもないと、一歩踏み出そうとしたシェーリオルの足が止まり、驚愕で目が見開かれる。

「どうしたんですー?」

 リアトリスが問いかけるが反応がないので、シェーリオルの視線の先を見る。

「ん? 人です?」

 よくよく凝視するまでもない。今まではヴァイオレットに視線が集中していただけのこと。魔法封じの全容を見れば、何が入っているかは一目瞭然だ。例え、液体のせいで色が青色に濁っていたとしても――

「……どういうことだ?」

 シェーリオルの呟きに答えたのは人族でありながら人族を嫌悪するヴィオラだった。

「『魔法封じ』の原理はリーシェ王子、あんたならわかっているだろ? 原理は『魔術』魔術によって、表面上は同一に見えるが、細部では明確な違いがある異なる術形態『魔法』を封じているんだ。つまり、魔法封じはその原動力である『魔術』がなければ発動しない。魔術における魔力……もちろん、魔法を扱う際に必要な魔力とはまた“異なる魔力”だ。『魔術魔力』が必要になる。それが切れれば――魔法封じは発動出来ない。魔法封じもまた『術』であることに変わりはないからな」

 ヴィオラは魔法封じの詳細を、この街で情報収集したことによって得ていた。
 だから――目の前の現実も明確に理解していた。

「小規模な魔法封じであれば魔石と同じ原理で魔力を体外へ摘出して、それを結晶化したものを動力とすればいい。けれど、この世界エリティスを覆うほどの魔法封じを常時展開し続けるのは並大抵の魔力では不可能だ。つまり――」
「その……魔力不足を補うための解決作が……複数の生きた人ってことか」

 シェーリオルの言葉にヴィオラは頷く。

「そうだ。しかも一日限りの使い捨て。複数の人を魔法封じの中に閉じ込めて常時魔力を吸い続ければ欠乏して何れ死ぬ。死ぬ前に、新たな人を閉じ込めるサイクルで、この世界の魔法封じは形成されている」

 不足分の魔力を常に補うには、魔力を結晶化するよりも体内を循環する魔力を使った方が効率的だ。だから、彼らはそれを実行したに過ぎない。
 世界ユリファスを乗っ取るために――手に入れるために。命の手段を選ばなかっただけの話。

「成程。非人道的ではあるが、効率的というわけか」

 ジギタリスが淡々と答える。そこに感情の色は見えない。例え、複数の人間が巨大な魔法封じの中に閉じ込められ、満たされた魔術で組み上げられた青い液体の中を力なく泳いでいたとしても――微かに伺えるその表情が絶望に歪んでいたとしても、今以上に凄惨な場を目撃したとしてもジギタリスは淡々と答えただろう。アークやリアトリスもまた同様だ。彼らは元殺し屋であり始末屋であり元暗殺者であり、他人の生き死にその過程や現場で感情を揺れ動かすことは滅多にない。
 使い捨ての命として老若男女が生贄にされようとそれで一々感情が揺らいでいては始末屋として、暗殺者として、殺し屋として今まで生き伸びることは出来なかっただろう。だから、揺れ動くことは希少だ。
 人族を憎むホクシアも――彼らが同胞ではないが故に、眉を顰める程度の反応だった。


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