零の旋律 | ナノ

魔法封じ


 そこは荒野のような場所だった――否、荒野だった。魔術によって移動していた先は、研究の塔から離れた先――街の外に結界で“外敵”から守っている場所だった。

「外!?」

 アークの驚きは当然だろう。扉を開けると荒野だったのだから。荒野、といっても何もないわけではない。無数の魔法封じの機材が乱列している。乱列した機材の中心にはひと際大きい魔法封じが置かれている。恐らくそれが本体だろう。

「……恐らく、魔法封じが完成した今、室内で研究することに意味がなかったんだろうな」

 魔術――魔導ではあるが造型が深いシェーリオルが推測する。
 室内で魔法封じを研究する必要性はなかったから、完成品を外に置いたのだ。
 研究者たちは突然のことに驚き、固まったがすぐに突如現れた招かれざる客は侵略中の異世界からやってきたものだと理解すると同時に交戦体制を取った。

「お前はヴァイオレット!」

 ヴィオラが叫ぶと、中心にいる人物が片手で研究者たちを軽く生死手から一歩前に出た。明るい茶髪は陽気な雰囲気を与えるのに対して、表情やなで肩がけだるそうな印象を与える。
 彼――ヴァイオレットは以前、イ・ラルト帝国の研究所内にてヴィオラに大怪我を負わせた張本人だ。

「お前らこんな所まで来て……魔法封じ破壊のスペシャリストにでもなるつもりか? 魔法封じが一体どれほどの年月をかけて積み上げられたものだと思ってんだよ」

 ヴァイオレットは舌打ちする。魔法封じは此処数年ましてや十年単位で作られたものではない。それを何度も破壊されるのは聊か以上に都合が悪い。

「は? そんなもん知るか。大体ユリファスにいたお前がどうして此処に」

 ヴィオラの指先と指先の間にはトランプが挟まれている。何時でも攻撃に転じることは容易だ。

「何を馬鹿なことを……。お前たちがこの世界にわたれたんだ、元々此処の住民である俺らが戻ってこれないわけないだろう」

 アネモネの指示でヴァイオレットは世界エリティスへ帰還した。
 帰還すると同時に魔法封じの責任者になった。何れエリティスへ侵入したユリファスの住民が魔法封じを破壊にしくるだろうと推測を立てて。
 破壊しに来たのは当然と言えば当然だが、しかし出来るのならば来てほしくなかった面々が集結していたことを、統制の街の監視や騎士団第二部隊隊長ネメシアの報告で知った時は思わず舌うちをした。

「たっく、此処の魔法封じを破壊されるわけにはいかないし、俺らの積年の野望此処で崩されるわけにはいかない死んでくれや」
「積年の野望だと? そんなものは知るか。お前らが――お前らの祖先が、争いを望みこの世界に滞在する道を選んだんだろう、今さらどうして世界ユリファスに干渉してくる。あまつさえ、侵略などしてきた、ふざけるな」

 ヴィオラの静かなる怒りに、ヴァイオレットは興味がなかった。

「はっ? 何を、だからこそ侵略をしているんだろ? 平和ボケしたのか?」
「なんだと!?」
「お前らだって、俺たちがユリファスに侵略してくるかもしれないと思ったから、世界を覆う結界を作ったんだろ? だったら俺らが実際に侵略したところで不思議はないだろ、それともあれか? おとぎ話に恐怖して結界でも作ったってのか? バカバカしい。そんな荒唐無稽な恐怖で、常に魔術を消費し続け、結界を担い続けるのか? だとしたら馬鹿以下だな」
「つっ――!」

 ヴァイオレットの言葉は事実だった。干渉の可能性を見過ごせなかったからこそ、レス一族は二度と干渉してこないように結界を張って世界を覆い隠して着続けたのだ。レス一族がヴィオラとシャーロアの二人を残して滅ぼされるその瞬間までは。


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