零の旋律 | ナノ

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「な、なんだよいきなりっ」

 小声で講義すべくラディカルは後ろを振り向き、また叫び声を上げそうなのを今度は自分の手を当てて抑える。

「不思議そうな顔をしているのは、何故?」

 宝石のような輝きを持つ金髪を靡かせながら艶然とした姿でホクシアは立っていた。

「確かホクシアだっけか」

 忘れるはずのない人物の名前を呼ぶ。僅かに緊張が含まれている。

「……覚えていたんだ」
「何故此処に?」
「それは此方の台詞」

 本来は敵対する存在だったが、ホクシアに敵意はない。ラディカルも同様だ。

「俺は……」
「言いたくないのなら、別にいいけど。一つ確かめたいのだけど――その眼帯は何?」
「っ――眼帯は……、そりゃ見たまんま眼帯だけど」

 咄嗟にラディカルは眼帯を抑える。何、と聞かれて明確に応えるための答えをラディカルは持ち合わせていなかった。

「そう。それが答え。まぁ私にはどうでもいいことだけど」
「ん? あれ? ホクシアって刀持っていたっけ?」

 初めて以前出会った時には所持していなかった刀が握られていることに気がつく。

「……愛刀よ」
「少女×刀×ドレス……」
「何」

 ぎろりとすごみを含ませてラディカルを射抜く。

「いえ、なんでも」
「貴方はどうやら、私たちの邪魔はしないみたいだから、ルキのこともあるし放置するけど――邪魔だけはするな」
「わかっているよ」
「でしょうね」
「ホクシアはどうして此処に?」

 仇名が一瞬で思いつかなかったラディカルは素直に名前で呼ぶ。
 名前で呼ばないと殺されそうな予感がしたから、ともいえたが。

「私が此処にいる理由は決まっている、でも――それよりも」

 ホクシアの視線が王宮へ向かう。

「今、一気に事を起こせないのが無力で嫌になるわ。……私の力はまだ足りない。貴方は王宮の騎士団に所属しているという魔族を知っている?」
「あーさっき聞いた」
「……事実なんだ。どうして――」

 どうしての続きは聞かなくとも、ラディカルには嫌というほど理解出来た。
 どうして――人族の味方をするのかと。魔族の敵を守護するのかと。

「まぁいいわ。真意は確かめられないことだし。もし――無理矢理やらされているというのなら、別だけど。私は私の仕事をする」

 これ以上、会話する必要がないと判断したのか、ホクシアは一人で歩きだす。
 ラディカルの止めようか迷った手が中途半端に彷徨う。

「ホクシアか、……完璧に気が付いているな」

 ホクシアの姿が完全に見えなくなったところで一人呟く。


+++
 アルベルズ王国港町“イルセ”
 定期便が到着すると、行商人が疎らに降り出す。

「全く、人使いが荒いんだから」

 その行商人たちに混ざりながら、一人の人物が船から降りる。行商人には見えない、一目で身なりのいいと分かる人物が風で髪が乱れないように手で押さえながらイルセの街並みを、日差しの眩しさで目を僅かに細めながら眺める。

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