零の旋律 | ナノ

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「そうか……やはり、魔法封じの破壊。しかし、魔法封じを破壊させるわけにはいかないな」
「じゃあ、強行突破させてもらうさ」

 答えたのはアークだ。途中研究者から奪った杖を女性に向けて投げつけた。杖を刀で弾き飛ばす。杖が地面に転がったのが合図の如くアークは、駆けだす。両手には瞬時に袖口から取り出した小型のレイピアが握られていた。
 アークが斜めから振るった風を切るかの如く鋭いレイピアを、もう一つの鎖つき刀を滑らかな動作で抜き取り、レイピアの角度に合わせて受け止める。
 女性が反対の手で刀を持ち、軌道を描いてアークを殺す凶手となり手襲うが、アークは後へバックステップを踏んで回避する。再び、距離を詰める。女性とアークの一閃が衝突しあう。
 女性が刀の軌道をずらすと鎖が舞い、それが戦闘狂の腕を痛めつける。骨は折れていないが、打撲はしただろう。鎖が引き戻される勢いで服が破れ腕からは血が流れた。

「なっ――!」

 シェーリオルは驚愕する――始末屋であり戦闘狂であるアークが怪我を負う事態が予想外で。シェーリオルの驚愕とは対照的にアークは口元に笑みを浮かべていた。満面の笑み、といっても過言ではないほどに笑顔だった。

「あはははっ、いいなぁ。楽しい!」

 血を拭うことも気にすることもなく、ただただ、アークは戦えて嬉しかった、楽しかった。気分が高揚する。彼女は好敵手であり、自分たちの目的を達成するための障害。即ち依頼を達成するために排除する存在。
 その存在が強ければ強い程に、戦闘狂としての血が唸る。

「楽しい? おかしなことを言うな」

 深く被られた帽子によって女性の瞳を伺い知ることは出来ないが、口元から察するにアークの行動が理解出来ないと呆れていた。

「強い相手と戦えるんだ、楽しい以外に何がある」

 嬉々として語るアークに、女性は口をさらに歪める。

「……ユリファスの侵入者、名前は」
「アーク、アーク・レインドフだ」
「そうか。私はユエリだ、覚えなくていいよ。私がお前の名前を知りたかっただけだからな」

 黒髪の女性――ユエリが刀を投げる。刀が勢いよくアークの頬の横すれすれを通り過ぎる。刀と一緒に鎖も続く。標的を抉らなかった刀を、ユエリは鎖を引っ張りすぐさま手元に戻す。その僅かなロスをアークは見逃さずに、レイピアで切りかかる。それをユエリは鎖を戻しながら床に転りながら倒れることで回避する。
 リアトリスとジギタリスはアークが楽しそうに戦っている以上、助太刀は不要だと判断して、傍観していた。時折、騒ぎを駆けつけた研究者たちがやってくるとそれをジギタリスが銃で近づく前に射殺する程度の動きしかない。
 ユエリの左腕をアークのレイピアの先端が捉える。皮膚を裂き血飛沫があがる。

「つっ――!」

 瞳は隠れているため、表情は伺えないが、唇を噛みしめて痛みを堪えていた。
 ユエリは痛みから逃げるかのように後方へ下がる。流れるように髪が靡く。


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