零の旋律 | ナノ

V


「サンキュ。しかし……いや、何でもない。で、リーシェは」
「どうぞ」

 シェーリオルも手の平を差し出した。

「……いいのかよ、王子様。王族にとっての重要機密とかも序に見ちゃうかもしれないんだぞ」

 ジギタリスとシェーリオルは違う。

「何言っているんだよ。そりゃ、人の過去を勝手にみられるのはあまりいい気分はしない。けど、もう既に過去を見られているんだぞ? だったら、今さらだろ」
「……そういえば、ソウデシタ」

 ヴィオラはあの時の記憶を思い出したのか顔を引き攣る。

「なんで片言になる。いいよ、このまま魔術師に占領される未来は――望んでいない未来であり結末なんだから、そうならないために手を尽くすのは当然のことだろ」
「わかったよ」

 シェーリオルの掌に触れ、流れてくる情報をヴィオラは纏めていく。数秒で、手を離す。ジギタリスとシェーリオルが得た情報は二人合わせてもヴィオラには及ばない。けれど、ヴィオラが得た情報と全て被っているわけではなかった。今後動くために必要な情報もいくつか混じっている。
 自分一人で行動しなくて良かった、とヴィオラは心底思う。

「さて、じゃあ夕飯にするか」

 人様の家のキッチンを勝手に使って食事を作っていたアークがエプロン姿で出てくる。手にはジュウジュウと熱気を漂わせるフライパンを持っていた。香ばしさが漂ってきて、ヴィオラの食欲をそそる。

「あるもんで作ったから、味までは保障出来ないけどな」
「いや、充分香ばしい。それに、勝手に人様の家に上がり込んだんだ、食材にケチをつけるつもりはないよ」
「じゃあ、テーブルに並べるから食べるぞ、リーシェちょっと手伝え」
「おい、王子を顎でこき使うな。お前のところのメイドが今、一緒だろうが」

 この面子の中で、レインドフ家のメイドであるリアトリスではなく、リヴェルア王国の第二王位継承者に夕食の手伝いをさせるのはラディカルあたりならば恐れ多くて出来ないことだ。
 口では文句を言っているが、別段手伝うことに不満はないシェーリオルはアークの料理を手伝った。
 テーブルに夕食が並び、それらを食べ、テーブルを綺麗にしたあと、ヴィオラが部屋にあった紙と万年筆を持ちだす。

「俺らは、結論からいえば、魔術師の街へ訪れて正解だった。この魔術師の街にある研究所の最奥に魔法封じの大本がある。それを破壊すれば、この世界エリティスに張り巡らされている魔法封じを破壊出来る。つまり魔法が使えるようになるってことだ」
「成程。魔法が使えるようになるのはありがたいな」
「そうね」
 
 魔導師であるシェーリオルや、魔族であるホクシアは特に魔法が使えないのは戦闘面に不安が残るが、それを解消出来れば本来の実力を発揮出来る。

「上層部を叩いて潰すにしても魔法が使えない状況は好ましくないからな。まずは自由に動けるよう、魔法封じを破壊する。それに大本を複製されてユリファスに持っていかれても面倒だ」

 ヴィオラの意見に反対するものはいない。

「それと、ユリファスへの侵略を指揮しているのは統制の街にある。魔法封じを破壊した後はすぐにそこへむかうから、戦闘は避けられないし連戦になる、気を引き締めろよ」
「問題ない、何時だって覚悟は出来ている」

 ヴィオラの言葉に応じたのはジギタリスだった。冷静沈着な態度は崩さない。包帯に巻かれて姿が見えない銃に手を置く。

「じゃあ、あとは明日の明朝まで自由行動で」

 ヴィオラが冗談めかして言った。


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