零の旋律 | ナノ

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「で、俺らは夜に戻ってくる。万が一、何か問題が起きた時はこの家に集合だ。例え襲撃されても、集合場所は此処だ、それ以外にしたら地の利もなく、魔導も使えない状況で合流するのは難しい。誰かが襲ってきたらその時はアーク、籠城でもしておいてくれ」
「わかった」
「で、戻ってきたら情報を纏める。それで明朝に仕掛けるぞ」
「夜のうちじゃないのか?」
「どうせ、魔術研究所に侵入したら夜だろうが朝だろうが露呈する。なら、一晩休んで体力を温存しておいた方が得策だ」
「確かにベッドで休みたいですよねー。野宿よりふかふかして寝たいですーので、ヴィオラの作戦了解です」

 リアトリスが真っ先に同意しながら、勝手に入れてきた紅茶を飲みほした。

 夜、ヴィオラとジギタリス、シェーリオルが戻ってきた。籠城戦になることはなく、アーク達は存分に休息をしていた。

「ただいま」
「おかえりなさーいです。それにしても此処はヴィオラの実家でもないのにただいまなんて、ずうずうしいですねー」
「相変わらず減らない口だな」
「口が減ったら大変ですよ? 顔のパーツが一個なくなってしまうじゃないですかー」
「はいはい、黙れ」
「全く、ヴィオラったら私の扱いがぞんざいじゃないですか―」

 頬を膨らませてリアトリスは抗議するが、ヴィオラは取り合わない。戦闘以上に消耗する行為を好んでするわけがなかった。

「で、何か情報はあったのかしら?」
「俺の方はな。ジギタリスとリーシェはどうだ?」
「ふむ、そうだな……」

 ジギタリスは腕を組んでやや思案した。情報が全くなかったわけではないが、三人で整理して一つに情報を纏めるのは手間暇がかかる。なるべくなら無駄な作業は省きたい。ジギタリスはヴィオラに右手を差し出した。

「ん? なんだ?」
「お前は振れた対象の記憶を読めるのだろう? 私が集めてきた情報について、ヴィオラやシェーリオルを含めて整理するよりもヴィオラが一旦情報を纏めた方が手っ取り早いだろう」
「……いいのかよ」

 魔族はともかく、人族に対して恨みがあるヴィオラは人族の記憶を読み取ることに対して罪悪感は覚えない。だから他人の記憶を読み取って、情報を集めていた。
 だが、今一緒に行動をしているのは、曲りなりにも仲間なのだ。
 果たして、相手の記憶に踏み入れていいものか、戸惑う。人族相手には殆ど抱かなかった戸惑いだ。
 ――全く、人族に対する憎しみが消えたわけじゃねぇのに、戸惑うなんて笑っちまうな
 ヴィオラは内心自嘲する。

「構わない。その方が手っ取り早いだろう」

 凛とした声に甘えてヴィオラはジギタリスの右手を握った。なるべく、必要以外の情報を垣間見ないように調整する。深層に眠る情報まで発掘する必要はないし、此処に来る前に情報を――ジギタリスの過去を知る必要もない。
 時間にして数秒でヴィオラはジギタリスの手を話した。


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