零の旋律 | ナノ

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 ラディカルは眼帯で隠していないため、金目を晒しているがノハは驚愕した様子すら見せないことを鑑みるに彼はアークたちと同類だと判断する。というよりも、ラディカルの中では驚かない=同類の方程式が既に出来あがっていた。
 ラディカルがナイフを触れられる、と思った瞬間、第六感が危険を知らせた。第六感に従ってラディカルはナイフから遠のくと、銃弾が雪を貫く。ナイフの鍔すれすれに。 ラディカルがそのままナイフに手を伸ばしていたら銃弾は手の甲を貫通していただろう。

「へぇ……」

 交わされる、とは予想していなかったのか僅かにノハは声を漏らす。
 ラディカルは二撃目を躊躇したが、武器がない状態で戦うのは危険だと判断し、そして第六感が今度は反応しなかったのを信じて素早く雪に刺さったナイフを手に取る。
 両手に大ぶりのナイフを構えながらノハを見据える。

「包帯のお兄さんは、何者っすか?」
「さぁ。別に何者でも構わないでしょ。態々名乗り合う必要があるとでも?」
「そりゃ、御尤もっすわ。俺も名乗るつもりはねぇし」

 ラディカルはナイフに炎を纏わせる。この場所は魔導が封じられなくて良かった、と心底思う。
 炎を纏わせたナイフを投擲する。続けて風の魔導を扱い、倍速の速度へ変化させる。
 ナイフの回転が高速度によって対象を切りつければ致命傷とは行かなくてもそれ相応のダメージを与えられる、とラディカルは踏んでいた。勿論当たれば、の話だが。
 ノハはそれをナイフの速度が倍速になったにも関わらず速度に即座に対応をし、無駄のない動作で回避する。
 服の隙間から覗く包帯で怪我が決して軽くはない状態だろうことはラディカルにも想像がつく。ラディカルに勝機があるとしたら、そこだった。何者かは知らないが、赤紫の髪をした人物は怪我をしている。その怪我を利用出来れば自分にも勝ち目がある、と。そう思うと同時に――そんな怪我がどうしようもないペナルティになるのであれば、最初から理由は不明だがこの場にはいないだろうという思考も訪れる。
 ラディカルの投げたナイフが手元に戻ってくる。ノハは様子を見ているのか、無駄な動作で怪我を悪化させないためか必要最低限の動き以上はしてこなかった。

「雷雲よ、青空を隠し、稲妻をふり落とせ」

 ラディカルが魔法を詠唱すると同時に、雪が舞う空がノハの周辺だけ、黒く暗雲が支配する。そこから稲妻がノハに降り注ぐが、ノハは頭上に手を伸ばすと同時に垂れ下がっているフードに付着していた魔石が輝き結界を作り出す。結界が雷を弾く。
 魔法の効果が切れると、空は再び雪空へ変わる。
 ノハが銃をラディカルの方へ構え引き金を引く。ラディカルは辛うじて銃弾を回避するが――それは回避されるのを見越したただの囮だった。ノハの武器は二丁銃剣だ。もう片方の銃弾が回避するだろう先へ放たれる。ラディカルがそれに気がついたところで回避を始めた身体がその流れに逆らうことも出来ず、右腕を銃弾が貫き、雪に弾痕が残る。血が飛び散り、真っ白だった雪に赤が付着する。

「つっあぁぁあ!」

 歯を食いしばるがそれでも痛みから声が零れる。幸いなのは致命傷ではないことだ。回避は間に合わなかったが、それでも――全く出来なかったわけではなかったということだ。

「駆けろ、灼熱の業火!」

 ラディカルは痛みに顔を顰めながらも、魔法を放つ。炎が地面を蛇がうねる如く突き進み、対象を焼き焦がそうとするが、ノハはそれをしなやかな動きで回避しながら、銃弾を放つ。ラディカルが放った炎が、自らの視界を曇らす障害となりラディカルはまたもや銃弾を左腕に喰らう。
 右と左、両方を銃弾で貫かれて、ナイフを握る力が弱くなる。力の限りナイフをブーメランの如く振り回すのは不利だろうと悟る。


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