零の旋律 | ナノ

Saidユリファス:海賊単独


 魔族の村を帝国軍人が襲ってからすぐにラディカルは、カルミアがいる限り自分まで魔族の村に滞在する必要はないと判断し、帝国へ単身で向かい始めた。
 魔法封じがない場所を事前にカサネお手製の地図――王都を出る時に現時点のです、と渡されたのを確認しながら遠回りして進んだ。
 魔法封じがない場所がない所では魔物から降りて、歩いた。その結果、魔物を駆使すれば半日で到着するところを一日かかった。
 イ・ラルト帝国とリヴェルア王国に毒を仕掛けたいとは思わない。だから仕掛けなくてすまないか、また何か自分の知らない情報はないか――と無謀にも帝国へやってきたのだ。
 それは策士であるカサネからすれば無用で余計なことだと迷惑な顔をされるだろうが、ラディカルには関係なかった。自分に出来ることが――毒を使うと判断するかしないか、だけとは思わないから。
 帝国へ足を踏み入れるのは初めてで、頭に降り積もった雪を頭を振って飛ばす。

「……誰だ?」

 ぶんぶんと頭を振っていた時、だ。前方から声がした。咄嗟に身体をこわばらせながら恐る恐る前を見る。
 此処はイ・ラルトの首都を囲っている外壁の外側だ。正面には警備の人がいたから、ラディカルは見つからないように北東へ移動していたが結果は見つかってしまった。
 ――やり過ごせるか、どうか

「あぁ、そうか。君はアルベルズ王国の人?」
「リヴェルアだ! って……あ……」

 やり過ごすも何も自ら墓穴を掘った。

「そう、リヴェルア王国から。ってことは敵、か?」
「あぁもうっ! なんでアルベルズって聞くんだよ! 普通そこリヴェルアだろ! 間違って今にも死にそうなお兄さんに対するようなツッコミになったじゃねぇか! しかも墓穴を掘ったし!」

 ラディカルは髪を振り乱しながらも、大ぶりなナイフを両手に構える。
 その様子を見て、前方に立つ人物――ノハは赤紫の髪に、左目は左分けにされた前髪で殆ど隠れかかっている。右目は怪我をしているのは包帯が巻かれている。上着からは兎の耳のようなものが垂れ下がっていて、雪国でもあるイ・ラルト帝国にいるだけあり、暖かそうな格好をしていた。髪が揺れるたびに見える青緑の左目がラディカルを眺める。

「そうだったのか……?」
「墓穴でしょ! どう考えたって。お兄さん変わっているっするね」

 ラディカルは先手必勝とばかりに大ぶりのナイフを投げた。ブーメランの如く回転しながら対象を抉ろうと襲いかかるが、途中であらぬ方向へ飛び、ラディカルの横を通り過ぎて雪に突き刺さった。

「ちっ――!」

 先手必勝が失敗した理由はノハの右手にあった。拳銃が握られている。ラディカルは慌てて雪に突き刺さったナイフをとりに走る。

「変わっている、とはよく言われるけどよくわからないな。まぁ――攻撃してきったってことは敵だろうし、敵は殺すよ?」

 ノハの瞳が冷淡に細められた時、ラディカルは己の失策に舌打ちをする。恐らくではあるが、ラディカルが先手必勝とばかりに攻撃しなければ、ノハは攻撃をしてこなかった。目的があるのかリヴェルアの敵をおそるるにたりないと高をくくっているのかは不明だが、それでもラディカルのことは素通りさせただろう。それをラディカルが攻撃をしたことで自ら安全な選択肢を破滅させてしまった。


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