零の旋律 | ナノ

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「まぁいいよ」

 別に知れたらいい、その程度の思いでしかなかったから落胆することもない。

「そう、なら自力で探すといいわ。禍根には巻き込まれないように注意することね。そして……」
「そして?」
「いいえ、これはただのお節介になるから止めておくわ」
「そうか、じゃあな。――無音はどうやらお前と出会いたくなくて、アルベルズ王国に来たくなかったみたいだな」

 無音、それは以前カサネ・アザレアがヒースリアを見て言った言葉。カサネ・アザレアが何故『無音』とヒースリアを称したのか、その訳をアークは理解している。
そして、アークとカルミアは初対面ではあるが、ヒースリアとカルミアは初対面ではない。
 頑なに、そしていつも通りの毒舌でアルベルズ王国へ同行するのを断った理由は、カルミアがいることを知っていたからだとアークは判断した。

「無音? 彼は今アークの所にいるのかしら?」
「俺の所で執事やっています」
「しつ? じ? あはははははっちょ、信じられないわっあはははっ」

 意味を理解して途端にカルミアは爆笑する。腹を抱えて笑っている。煎餅が入っている紙袋を落とさないように、必死に笑いを抑えようとするが、中々笑いは収まらなかった。

「彼が、執事!? ありえないわーあはははっもうちょ、やだ、笑いとまらないじゃないの」
「大爆笑だな」
「大爆笑に決まっているじゃないの、あぁ、おかしかったわ」

 路地裏の壁を数度叩いて、ようやっと笑いが収まり姿勢を戻す。髪の毛が僅かに乱れていた。

「もう数年分笑った気分よ。あはははっもう面白過ぎ。それにしても無事なのね」
「あぁ、無事さ」
「ならもう一つ。彼が此処に来たくない理由はもう一つあるわよ。何かは教えてあげないけど」
「ふーん、じゃあな」

 また、会う廻り合わせならば会うだろう、そういったノリでアークはカルミアと別れ、ローダンセを探しに回る。身なりの整ったアークを恐れる人々の様子から、この街で貴族が市民をどういった扱いをしているのかを如実に語るようだなと内心アークは思う。
 アークの服は他の貴族が身につけている質のいい服と別段変りはない。それだけ高い物を身につけている。
 だからこそアークが市民街を歩けば貴族に間違われても不思議はないし、貴族街を歩いた所で咎められることも怪しまれる事もない。


+++
 一方その頃ラディカルは貴族街をうろついていた。別段、服装が汚れているわけではないが、他の貴族の服と比べると劣ってしまう。誰かに咎められたり、印象を与えないように行動している。眼帯をしている手前、眼帯をしている少年という印象で覚えられてしまう。
 ラディカルは誰にも見つからないように行動しているが、此処にアークと同様にラディカルに気配を掴ませない存在が入れば、別だ。
 ラディカルは魔族が囚われていそうな屋敷に忍びこむ。確証はない、勘だ。
 忍び込んだ屋敷は貴族街の中でも、中心部に位置する中流貴族だった。
 貴族街――元々警備されている場所だからか、強固な警備は敷かれていなかった。
 ラディカルは楽々と侵入して、魔族を探す。見落とさないように慎重に確認していく。可能性が零ではない箇所は、徹底的に探した。しかし、魔族は何処にもいなかった。

「ちっ、外れか」

 ラディカルは勘が外れた事に落胆しながらも、別の家に侵入しようと、それらしい場所を探す。しかし、何処にも魔族はいなかった。いそうな痕跡は幾つも発見したが、そのどれにも魔族はいなかった。
 何処に魔族がいるのか――ラディカルが慎重に周辺を見渡す。

「ちょっと、何をしているの」
「うのおお」
「黙って」

 叫ぶ途中で口を塞がれる。徐々に呼吸が苦しくなり、手を叩くとすんなりと離された。


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