零の旋律 | ナノ

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 カルミアの力量にラディカルは味方として現れてくれてよかった、とすら思いほっと胸をなで下ろすと同時に、もしもこの先カルミアが敵になることがあったらと、あってはならない未来を想像してぞっとした。
 ルキもカルミアが魔族を戦力として見なかった理由を理解した。此処までの強さを誇るのならば、魔族の助けなど不要だ。
 カルミアを殺せるのならば殺すべきだ、とルキは脳内で思うし、他の魔族も同じことを考えているだろうが、それでも殺すなどという安易な行動には出られない。
 魔術師と帝国というリヴェルア王都やアルベルズ王国の人族よりも明確な敵がいる以上、カルミアの力は必要不可欠だろうし、何より主力戦力がいないこの魔族の村でカルミアを殺せる者がいないのが一番の理由だ。
 全員で殺しにかかったところで、先刻の兵士たちのように瞬く間に殺されるのが落ちだ。明確すぎるほどの実力差を肌で実感した。

「さて、もう一か所に固まっていなくていいわよ。仮に援軍がやってきたとしてもそう簡単には来ないでしょうから」

 カルミアがさらりと告げるので、これ以上人族の否カルミアの顔は恐ろしくて見ていたくないと魔族はそそくさと退散していった。ルキは大人しくしているカトレアの手を引いて同じくその場を後にする。
 その場に残ったのは呆然とするラディカルと、兵士を殺したカルミアだけだ。

「そういえば、カー姉さん。魔導使ったっすよね」
「えぇ、使ったわ」
「……魔石は何処にあるんすか?」
「魔石は持ち歩いていないわ」
「ってことは、体内に入れたんすか、魔石を」

 ラディカルは恐る恐る問う。その様子にカルミアは何かがあるのだと勘付いた。

「魔石には何かあるのね」
「……魔物は、魔石を体内へ入れた人族の成れの果てなんすよ」
「そうだったの」
「カー姉さんは、気にしないんすか?」

 普通の人族ならば絶望する。魔物として忌み嫌っていた存在に自らが成り果てるのだ。そして今まで忌み嫌っていた存在と殺してきたものが人族だったと知るのだ。
 なのに、カルミアには気にした雰囲気はない。自らが将来魔物になると知らされたのに。

「気にしない、というより覚悟していたからかしらね。力を得るのに何の代償もなく得られるなんて甘いことを私は思っていないからよ。魔石を持ちいらず魔導を扱える、そのための力を得るための代償が魔物(それ)なら、私はそれを受け止めるだけよ」
「真似できねぇっすよ」
「真似しなくていいのよ」
「俺なら一年は絶望するっすよ」
「あら、一年ならいいじゃないの。長い奴なんてきっと死ぬまで絶望しているわよ」

 くすり、と笑うカルミアに、ラディカルはやはり真似出来ないと心底思った。

「カー姉さん……強すぎっすよ」
「弱ければ生きていけなかった。というだけの話よ。それにね、魔石としての力は私が生き伸びるための手段。結局のところ――魔石を体内へ入れなければあの時死んでいたのだろうから、後で魔物と成り果てると知っていても私は魔石を体内へ入れたわ。結末なんて、変わらないもの」
「どういうことなんすか」
「さぁ。どういうことでしょう」

 陽気にはぐらかすカルミアに、ラディカルはそれ以上問うことが出来なかった。

「(それにしても、策士カサネ・アザレアは私に何故、魔族の村を守らせたいのかしら。カトレアを守ってもらう、その名目も勿論あるんでしょうけれど、たったそれだけのことで私を魔族の村に滞在させるわけがない。つまり、魔族の村に滞在させ、魔族すら守ることに意味や理由はあるのでしょうけれど、本当に一体何を考えているのかしら)」

 カルミアはそよ風を肌で感じながら考える。幻影のカルミアと呼ばれた殺し屋を、カトレアや魔族を守らせるためだけに扱うその理由を。


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