Z 程なくして魔族は村の中心部に魔族はひと固まりに集まった。 魔族の村近郊で異世界との扉を繋げたミルラやシャーロアの姿はない、というより魔族の村には戻っていない。とはいえ、万が一ミルラとシャーロアの姿が帝国の人族に発見されたところで、ミルラの実力であれば問題ないだろうとさしてラディカルは気にしていない。 カルミアの耳が捉えた音は的確で、魔族が中心部に集まって数分後イ・ラルト帝国の軍人が襲いかかってきた。 問答無用の一閃が迸る。しかし、それを軽やかに防いだのはカルミアだった。 「いきなり問答無用で襲ってくるなんて酷いじゃない。無粋よ?」 数にして二十。けれどカルミアは慌てるどころか優美に微笑んでいた。 「人族が何故魔族の味方をする」 帝国の軍人が怒気を含みながらカルミアに問う。魔族とは人族の敵だ。故に、魔族の味方をする人族の存在が理解出来なかった。 「そんな答え――必要ないでしょ」 カルミアが軽くあしらう。 魔族の村にいる人族はカルミアとカトレアだが、魔族と一緒に避難しているカトレアのことは帝国軍人の視界には入っていなかった。 帝国軍人は魔族の――魔法師を殺すために出向いた、いうなれば少数精鋭だった。だが、現状に自分たちは本当に精鋭部隊であるのか疑問を抱かずにはいられなかった。 たった一人の、女口調で話す男に翻弄――否、蹂躙されていた。 緩やかなウェーブがかかった腰まである撫子の髪が揺れると同時に人が舞う。 「てめぇっ! 何者だ!」 「誰だって構わないでしょう。私はただ、頼まれただけよ」 兵士の額から大量の汗が流れる。兵士が五十歩動いたとするなら、女口調で話す男カルミアは二歩しか動かない、程に無駄のない洗練された動きをしていた。精鋭の兵士たちをも遥かに上回る技術で。 「ふざけんな!」 「そうねぇ、しいていうなら元酒場の店員よ」 「嘘つけ!」 「事実なのに酷いわぁ」 口元に笑いを隠さずに答えるカルミアに、兵士は苛立ちと焦りが生じる。 ラディカルはカルミアの洗練された舞とも呼べる優美な体術に、呆然とした。自分の腕前では精鋭の兵士全員を殺すことは不可能だと、冷静に脳内が判断している。なのに、カルミアはあしらっているのだ。急所を狙うことなく、攻撃を受け流している。故に兵士たちは何度宙を舞おうが、地面にたたきつけられようが戦闘を続行するのが不可能ではない。だから何度も挑む。けれど道端に転がっている石のようにまるで気にされていないような錯覚を抱くほどにカルミアの実力が圧倒的だった。 [*前] | [次#] TOP |