零の旋律 | ナノ

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 カサネとエリーシオが今後の作戦や優先度を歩きながら話し、周りの人が静かに立ち去って行く時、森に囲まれた魔族の村では、その付近の木々が僅かに揺れた音をカルミアの耳が聞き取っていた。

「ラディ。急いで、魔族の村に戻りましょう」
「どうしたんすか? ってまさか襲撃!?」

 ラディカルの顔が青ざめる。

「恐らくはね。早く知らせて上げた方がいいわ」

 カルミアが駆けだしたので、その後にラディカルは続く。カトレアが魔族の村にいる以上、ラディカルとカルミアはそこまで離れた場所にはいない。すぐに魔族の村へ戻った。
 走って戻ってきた二人に、カトレアと、一緒にいたルキは何かが起きる判断し視線を二人へ向ける。

「どうしたの?」
「恐らくは襲撃があるわ。……まだ、真っ直ぐに此方へ着ていないところを見ると正確な居場所は判明していないみたいだけど」
「帝国なの?」
「王国が今、魔族の村を襲う利はないからそうでしょうね。ルキ、お願いがあるのだけれど」
「……何?」

 ルキは不審な表情を隠さず、カルミアに問う。以前、魔族の村で怪我をしていた魔族の手当てをしてくれたカトレアに対しては和らいだ表情を見せるが、カルミアは得体の知れない人物だ。
 何より、カルミアが纏う“雰囲気”が何処かルキは嫌だった。

「出来れば魔族を一か所に集めてもらいたいわ」
「なんで? 一か所に集めて意味はあるの?」
「当たり前よ。あちらこちらにいられちゃ――守りきれないわよ」

 女口調ではあったが、後半の凛とした言葉にルキは息をのむ。

「でも、それって利点と欠点もあるよね。襲われた時逃げ道がないのは一か所に集まっている方だと思うけど」
「襲われた時? 何を言っているのかしら? そんな可能性――万に一つもないだろ」

 大胆不敵、自身満々さが溢れる絶対の自信に、ルキは怯んだのと同時に気がついた。
 カルミアはその言葉を本心からいっているのだ。一抹の不安も、失敗する可能性も考慮に入れず断言を出来る程自然に。

「カー姉さん……流石っす」

 以前アルベルズ王国でカルミアの実力を目撃しただけだが、それでも圧倒的だった強さをラディカルは知っている。しかし、あまりにも大胆不敵過ぎて感心すべきか呆れるべきか迷って半目になった。

「わかった。貴方の言う通りにするよ……それでも、僕らも戦えるんだけど」

 ルキの不満そうな声に呼応するかの如く、隣に並ぶ魔物が威嚇をした。

「魔法封じがない今、貴方たち魔族は充分な戦力でしょうね。でも不要よ。私がいる以上必要ないわ。……戦力じゃない、とは言わないけれど。戦力でも戦えば怪我をする可能性があるわ。不必要な怪我は望まないわね。だから、手っ取り早く犠牲もなく終わらせる方法を私はとるだけよ」

 それは即ち、魔族と共同戦線を張るよりもカルミア一人で戦う方が効率的だ、と案に告げているようなものだ。

「……そう。貴方がそういうならいいよ」
 
 ルキは例えカルミアが死んだとしても傷つく魔族はいない。ならば、魔族が傷つく可能性よりもカルミア一人に戦ってもらった方が安全だ、と最終的には判断した。
 ルキは魔族を集めにそそくさと移動を始めた。

「んーなんでルキはカー姉さんには冷たいんすかね。あの少女にはそんなに冷たい雰囲気ないっすのに」
「それ、私本人に言うことでもないでしょう。まぁそんな答えは簡単よ。私は何もしていないし、人族で――且つ、殺すことにためらいがないからでしょ」
「えと、カー姉さんがただ魔族の村にいる冷酷な人族って見られているってことっすか?」

 ラディカルが頭を捻りながら答える。

「まぁ、そんなところよ」

 カルミアはさらりと答える。さして気にしないように――。


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