零の旋律 | ナノ

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「ええっとそれは……」

 言い淀む。正確な目的は話せない。

「……まぁ別に売人とかには見えないけれども」
「そんなんじゃない!」
「怒鳴らないでよ。何が目的だか知らないけれど。深く追求するつもりもないけれど、魔族をどうにかしたいと思っているのなら貴族街かもしくは王宮に行くより他ないわよ……一人だけ」
「一人だけ?」

 ラディカルは首を傾げる。一人だけ何だ。

「一人だけ魔族の異例がいるわ。王宮を守る騎士団に、一人だけ魔族がいるのよ。前代未聞って感じで当時騒がれていたらしいわよ」
「なんだそりゃ」

 魔族が人族を守る話し聞いたことがなかった。自分たちを忌み嫌う相手を守るだなんて到底考えられなかった。想像だにしない。

「実際にはみた事がないから、私もなんともいえないけれど、後は聞いたことがないわね」
「有難う。まぁ多分それはいいや。貴族街か、侵入するっきゃないか」

 軍人辺りが聞いていたら即効捕えられそうな言葉に、カルミアは苦笑する。
 飄々とした雰囲気でラディカルは答えたが、その奥にあるものをカルミアの温厚な瞳に見抜かれた錯覚にラディカルは陥る。

「じゃあ俺は貴族街にいくわ。今にも死にそうなお兄さんと、ただ者じゃないオカマなお兄さん」

 また明日、という感じに手を振ってラディカルはその場を後にする。

「カルミア……お前さ、ローダンセ・クレセントって知っているか?」
「えぇ、知っているわ」

 依頼されたターゲット名をアークは明かし尋ねる。
 勿論依頼されたとは伝えないが、アークも理解している。名前を明かした時点で目的が何かと伝わると。
 しかし広い市民街で探すよりも手っ取り早いとアークは判断した。依頼主の名前を明かすわけでもない。

「何処にいるか教えてもらえたら有難いのだが」
「断るわ、教えるつもりはない」
「何故?」
「わかっていることを態々聞かないで。一つだけ教えるのなら彼は市民にとって唯一の希望よ」
「希望を奪うことは許せないか?」

 問い。ローダンセをアーク・レインドフが殺せば、市民にとって唯一といっていい希望の光を失うことになる。ローダンセの実力があったからこそ、レインドフ家が雇われた。

「さぁ、そこまではわからないわ。でもね……貴方が雇われてしまえばローダンセがいくら強くても勝ち目はないわ、死ぬだけ」

 ローダンセの実力を何度もカルミアはみてきた。市民の希望だということも知っている、嫌という程実感している。そしてローダンセが場をわきまえた性格であることを知っている。
 自分と他の市民が一緒に行動しているところを発見されれば、自分はともかく市民が軍人によってどんな目にあわされるかを、だから普段は何処かに隠れ姿を見せない。
 アーク・レインドフの実力をこの目でカルミアはみた事がない。けれど、直感でわかってしまう。ローダンセに勝ち目がないと。
 ――私は彼女程、人の実力を見きる瞳は持っていないけれどね。

「だろうな」

 アークも否定しない、自分の実力を過信しているわけではない。ただ、自分の実力を知っているだけ。

「だから、私はローダンセの居場所を教えないし、私はローダンセの居場所を知らないわ」

 誰にも居場所を知られないようにローダンセは暮らしている。

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