零の旋律 | ナノ

side:ユリファス


 Saidユリファス
 アーク達が異世界エリティスへ渡って数時間後。

「あの策士様は一体何でこんなもん俺に渡したんだよ」

 ラディカルは悪態をつく。
 策士に渡された封筒の中身は一言でいえば残酷だった。二言にするならば残酷で物騒だった。
 そしてつくづく実感した。策士にとって大切なのはリヴェルア王国ではなく、エレテリカというただ一人の人なのだと。
 最悪、エレテリカが守れるのならば他の人を皆殺しにすることも出来るのだ――自分自身の命を含めて。
 改めて実感することでもない――が。
 だからこその封筒の中身。ラディカルは封筒の中身を開けて出てきた半透明な小瓶と赤紫色の不気味な液体を眺める。

「何かしら、それは」

 ラディカルへ声をかけてきたのは、カトレアに抱きついているカルミアだった。
 ラディカルは半魔族の証である金の瞳をすでに眼帯で隠してはいない。最早隠す必要がないと判断して。

「何やっているんすか、カー姉さん。空気読めない少女に殺されるっすよ」
「大丈夫よ、殺される程やわじゃないから」
「さいですか」
「で、それは何? みた限りとてもよくない物だっていう想像はつくけれど」

 朗らかな口調で問いかけるカルミアになら話してもいいのではないかとラディカルは錯覚を抱く。
 この封筒の中身を誰にも話すな、と策士は一言も言っていない。
 それは口止めしようがしまいがどちらでも構わないという意思の表れだ。策士はわかっている――どちらにしろ変わらない、と。

「んーカー姉さんには話してもいいけど、大人しい少女に話すのはちょっとなぁ……」

 カトレアに告げるには残酷だとラディカルは判断した。

「カトレア、悪いけど少し離れてもらえる? もちろん私が察知出来る範囲内でお願いね」
「うん、わかった」

 ともすれば仲間はずれとも取れる発言だが、カトレアは気にせず小走りで離れて行った。
 簡単にいえば、“人殺し”に関係することに関してカトレアは常に蚊帳の外にいるようなものだ――レインドフ家にしろ、何処でにしろ。
 カトレアは理解している。自分が踏み入れていい領域と駄目な領域を。だから、駄目な領域に踏み入れることはない――それを姉が望んでいるから。

「で、何かしらそれ」
「毒っすよ」
「ラディカルが毒を好んで使うとは思えないから、誰かから渡された毒ね」

 付き合いは浅いが、それでもラディカルという人となりをカルミアは理解しているつもりだ。

「そうっす。策士様――カサネ・アザレアから渡されたんすよ。状況によってはこの毒を使えって」
「成程。リヴェルア王国の状況が悪くなったら形成逆転のためにイ・ラルト帝国に毒を流せってことね。その量で人を殺すんだから――水にでも毒をまけ、といったところでしょ?」
「流石っすね。でもそれだけじゃない」
「どういうことかしら?」

 いくら元暗殺者とは言え、そこまでは理解の範疇ではないのかカルミアは首を傾げる。そのことにラディカルは内心ほっとした。
 圧倒的実力を有するだろう彼でも、そこまで非道なことが簡単に思いつくわけではないのだと。だからラディカルは口を開いた。

「確かに策士様にはそう言われたっすよ。でも問題はそれだけじゃない。状況によってはイ・ラルト帝とリヴェルア王国両方に毒を水にいれろって言われたんだ――王都に。だから最悪、王都の人全員を皆殺しにする計算があの策士にはあるんだ」


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