零の旋律 | ナノ

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 ヴィオラが懐中時計を見ると時間は二時間を経過していた。寝ている四人を起こすか、と立ち上る。二時間寝て、二時間起きてまた寝たリアトリスとジギタリスを起こした時はまだ眠たいか、と思ったが実際は眠そうなそぶりを一切見せていなかった。

「眠くないのかよ」

 思わずヴィオラが問うと、こまめに寝ても纏めて寝ても寝た合計時間は変わらないと、リアトリスが笑った――やけに冷めた笑いで。
 軽く朝食を食べてから、ヴィオラを先頭にし魔術師の街へ向かった。
 方向感覚が狂いそうなほどに、同じような荒廃した景色が続く。これは魔術師同士が争いをやめなかった結末だ。
 そして、世界が滅ぶかどうかの瀬戸際まで荒廃した時、魔術師たちは争いをやめた。なんて愚かなんだとヴィオラは思う。
 魔術師の街へ到着をすると、そこの入口は統制の街と変わらず壁で覆われていた。ヴィオラは自分とジギタリスだけで行動するか、それとも全員一緒の方が安全か考える。
 前回のように両方を襲われる状況は余りいいとは言えない。いくら戦力面が強いからといっても、万が一数で圧倒されれば勝ち目は薄いだろう。多勢に無勢の状況を覆すだけの人数は存在しない。

「迷っているんです? どーせ侵入するってばれるんですよねー? だったらもう面倒なんで全員で行って邪魔する人は全員倒しちゃいましょー」

 物騒なことを平然と、しかし合理的なことをリアトリスが提案したのでその通りで行くことになった。

「そうだな。よし」

 アークはきょろきょろと周囲を見渡して武器を調達しようとしたところで、ジギタリスが懐に入れている拳銃を横に置く。アークは案の定それを武器として取り扱った。

「……いや、なんかおかしいだろそれ」

 ヴィオラの突っ込みにアーク以外は頷いた。

「そもそもお前武器持っているんだろうが」

 今に始まったことではないとはいえ、シェーリオルも呆れ顔だ。

「……さて、無駄話をしていても仕方ない。進むか。見つかるか、見つからないかは結局のところ進んでみないとわからないしな」

 ジギタリスの言葉に同意しながら彼らは魔術師の街へ足を踏み入れた。

 魔術師の街は統制の街と殆ど変わらない作りだった。ただ、頭上を飛び交う半透明の掌サイズの球が一定の線で飛び交っているのが不思議な光景だった。
 堂々と道の真ん中を歩くアークたちに、街の住民は彼らがまさか異世界からの侵入者だとは思いもせずに気がつかない。不審な動きをするわけでもなく、あくまで堂々としているのだ。
 何より服装にもさしたる違いがないが故に気にする必要もなかった。

「さて、と」

 ヴィオラは周囲を見渡しながら何か情報を入手するのに最適な物がないだろうかと探す。
 不審者と映らない程度に。焦ったところで騎士団の人族はやってくる時はやってくるのだ、ならば下手に焦るだけ不要。

「それより情報知っている奴捕まえて吐かせた方が早いんじゃないのか?」

 アークの言葉にそりゃそうかとヴィオラは頷く。
 吐かせる必要も何もヴィオラの手にかかればないのだが、もしヴィオラが殺されたとしてもアークやジギタリスがいれば情報を入手することも用意だろうとも思う。尤もそれをヴィオラが言えば、始末屋と殺し屋の専門分野ではと苦笑されるだろう。しかし、シェーリオルやホクシアが知りえる手段より余程効率よく情報を相手から吐き出させることは可能だ。

「じゃあ、情報を集めますか――」


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